株式会社K.Platinum 清水洋太
「この機能、本当に必要でしたか?」
リリースから数か月たって、そう聞ける相手がいない。エンジニアとして働いていると、意外とこういう場面に出会います。つくるものが決まった状態で声がかかり、決まっていない部分を埋めるのが仕事。使われたかどうかを確かめる頃には、もう次の現場にいる。
K.Platinumは、お客様のビジネス課題に提案から入り、課題の整理・システム開発・リリースまでを一気通貫で支援する会社です。売上の中心は、まぎれもなくこの支援業務です。それなのに、自社プロダクトを3つ動かしています。結婚式場向けの写真投影サービス、学習ポータル、SNS運用ツール。どれも受託の売上には直結しません。受託が本業なのに、なぜわざわざ自分たちの製品をつくるのか。今日はその話をさせてください。
「何をつくるか」を誰も決めてくれない場所
自社プロダクトの開発が受託と決定的に違うのは、仕様を決める人が社内にしかいないことです。
受託の現場では、要件の背景に必ず誰かの意思があります。「この項目は経理の締めに必要だ」「この画面は現場が毎朝見る」。私たちはその意思を引き出し、整理し、動くものに変えていきます。弊社が得意にしているのはまさにここで、業務整理から入って、改善して、システムにして、必要ならAIまで載せる。提案から運用まで通しで関わるので、「言われた通りに作る」だけの関わり方にはなりません。
それでも、最後の最後に「やらない」と決める権限は、お客様の側にあります。当然のことですし、それでいいのです。ただ、その判断を一度も自分でしたことがないままシニアになると、設計の勘所がひとつ育たないままになります。何を捨てるか、どこまでで十分とするか。この感覚は、自分が捨てる側に立った経験からしか身につきません。
弊社はこれまでに20を超える開発プロジェクトに関わってきました。製造業の基盤づくりから、金融領域の大規模なシステム再構築まで、扱う領域はかなり幅があります。そのどれもが、私たちにとっては「誰かの判断の結果として存在している仕事」です。判断そのものを引き受ける機会は、案件の数をこなしても自動的には増えません。
自社プロダクトでは、その役が回ってきます。「この機能は入れない」と決めたのは自分で、使われなかったらそれも自分の責任です。逃げ場がない代わりに、学習の速度が変わります。
「アプリを入れてください」と言わないために
弊社の自社プロダクトのひとつに、結婚式場などのイベントで使うPhotoMemorialというサービスがあります。会場にいる人がその場で撮った写真を、リアルタイムで大きなスクリーンに映すものです。

このプロダクトを設計するとき、最初に決めたことがあります。専用アプリをインストールさせない、ということです。
技術だけを見れば、アプリにしたほうが簡単な部分はいくつもあります。撮影の制御もしやすいし、通知も送れる。それでも見送ったのは、使う人の顔を思い浮かべたからでした。結婚式に来ている人は、その日一日のためにアプリを入れたいとは思いません。スーツのポケットからスマートフォンを出して、隣の席の親戚に「これ、どうやるの」と聞かれて、説明できないまま乾杯が始まる。そうなった時点で、この機能は無いのと同じです。
さらに、投稿された写真がそのまま映るわけではありません。会場のスクリーンは、その日いちばん見られる場所です。取り違えや、場にそぐわない一枚が混ざったときに止める仕組みがなければ、サービスとして成立しません。モデレーションの機能は、機能一覧を華やかにするために付けたのではなく、無いと怖くて出せないから付けました。
こういう判断は、機能要件の一覧を眺めていても出てきません。「誰が、どんな場面で、どんな気分でこれに触るのか」を想像しきったところにしか答えがない。受託の現場でお客様の業務を聞き取るときに使っている筋肉と、まったく同じものを使っています。
自分たちの困りごとから始まったもの
もうひとつの流れが、社内の課題から立ち上がったプロダクトです。
弊社にはK.QUESTという学習・研修用のポータルがあります。もともとは「人によって学ぶ内容も進み方も違うのに、進捗を追う手段が表計算しかない」という自社の困りごとから始まりました。社員は十名ほど、平均年齢は27.5歳。未経験から入ってくるメンバーもいれば、他社で経験を積んで加わるメンバーもいます。同じ研修を全員に流すやり方が合わないことは、最初から分かっていました。
自分たちが使うものを自分たちでつくると、フィードバックの距離がゼロになります。使いにくければその日のうちに言われますし、言った本人が翌週には直す側に回ることもある。要望を聞いてから反映するまでの時間が、受託とは桁で違います。この速さを一度経験しておくと、お客様の現場に入ったときの「とりあえず動くものを見せて、そこから詰める」という進め方に、体で納得できるようになります。
興味深いのは、社内の困りごとから始めたものが、そのままお客様に届く場合があることです。学習ポータルは社内で使ううちに形が整い、いまでは導入や運用の支援もできるようになりました。自分たちが毎日使って不便を潰してきたものには、資料には書けない説得力があります。売り込む前に、こちらがいちばん長く使っているからです。
SNS運用を効率化するツールも、同じ経緯で生まれました。自社でブログとSNSを運用していて、手間がかかる部分が見えていたから作った。誰かに頼まれたわけではありません。
ここ数年は、この「思いついたものを形にする」までの距離がはっきり縮まりました。弊社では、設計メモの作成に生成AIを使い、実装をClaude Codeに任せ、レビューをCopilotに通すという流れを標準にしています。案件によっては、従来比で5倍から20倍の速さで形になります。個人の思いつきが、試作までたどり着くようになったのです。
「何をつくるか」から関わってみたい方へ — K.Platinumでは、受託の現場と自社プロダクトの両方に関われるエンジニアを募集しています。募集中のポジションと働き方を見る
二つの仕事は、同じ筋肉を使っている
受託と自社開発を両方やると聞くと、時間の取り合いになりそうに思えるかもしれません。実際には、片方で鍛えたものがもう片方で効いてくる場面のほうが多いと感じています。
受託で身につくのは、他人の事情を正確に理解する力です。業務の流れ、担当者の言葉になっていない前提、予算とスケジュールの制約。これを外さずに拾えるようになると、自社プロダクトで「ユーザーは本当はこう動く」と考える精度が上がります。
逆に、自社プロダクトで身につくのは、決めて、出して、反応を受け取るまでを一周する力です。この経験があると、お客様に対しても「その機能は後回しでいいのでは」と言えるようになります。遠慮して全部作りますと答えるのは、実は誠実ではありません。
弊社が提案の段階から関わることにこだわっているのは、この往復ができる人を増やしたいからでもあります。業務を整理する人と、コードを書く人と、リリース後の数字を見る人が別々だと、学びが誰にも一周しないまま終わってしまう。
まとめ
自社プロダクトの開発は、華やかな仕事ではありません。うまくいかずに畳んだ企画もありますし、社内の数人にしか使われていない機能もあります。
それでも続けているのは、「自分で決めたものが、誰かに使われる(あるいは使われない)」という経験が、エンジニアの成長にとって代えのきかないものだと考えているからです。受託の現場で腕を磨きながら、自分の名前で決める場所も持っておく。弊社が用意したいのは、その両方がある環境です。
社内では、オンラインの勉強会やLT会も定期的に開いています。自分の手元で試したことを話す場があると、試作で終わったものにも意味が残ります。フルリモートで働くメンバーが多いからこそ、「誰が何に興味を持っているか」が見える場所は意識してつくるようにしています。
つくりたいものがある方、あるいは「何をつくるか」から関わってみたい方と、ぜひ一度お話ししたいと思っています。
清水洋太(しみず・ようた)
株式会社K.Platinum所属。エンジニアが力を発揮できる環境づくりを大切にしている。
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