株式会社K.Platinum 清水洋太
カジュアル面談で、ほぼ毎回といっていいほど出てくる質問があります。技術の話でも、働き方の話でもありません。「英語ができないと、難しいですか?」です。
弊社の紹介文には「外資系の大手金融機関を中心に」という一文が入っています。そこを読んだ方が、応募ボタンを押す前に一度立ち止まってしまう。実際、その質問をしてくださった方の多くが、少し申し訳なさそうな声になります。
先に結論を書きます。弊社の選考で、TOEICのスコアをうかがったことは一度もありません。ただし「英語はまったく出てきません」と言い切るのも、それはそれで誠実ではないと思っています。この記事では、私たちの現場で英語が出てくる場所と、そこにどう向き合っているかを、できるだけ具体的に書いてみます。
面接で聞くのは英語力ではなく、「わからない時の動き方」です
「英語、必要ですか?」
この質問をいただいたとき、私たちは逆にこう聞き返すことが多いです。「今の現場で、わからない用語や仕様に出くわしたとき、どうやって調べていますか?」
意地悪な質問に聞こえるかもしれませんが、これが本題だからです。私たちが仕事のなかで英語に触れる場面は、そのほとんどが「知らないことを調べる」という行為とセットになっています。つまり英語力そのものというより、わからないものを前にしたときの動き方のほうが、結果として仕事の質を左右します。
スコアをうかがわない理由も、そこにあります。数字は、その人がどれだけ調べるのが好きか、詰まったときに誰に聞けるかを教えてくれません。一方で、後者は入社後に伸ばせますし、現場で毎日使う力です。
面談で「英語は苦手で……」とおっしゃった方が、実は普段から海外の技術ブログを翻訳にかけて読んでいた、ということもよくあります。ご本人は「読めているうちに入らない」と思っている。でも私たちから見れば、それはもう十分に必要な動き方ができている状態です。
逆に、英語に自信があっても、わからないことを持ち帰って抱え込んでしまう方は、最初のうち苦労します。弊社は提案の段階からお客様の業務に入っていくので、「わからない」を早く外に出せるかどうかが、そのままプロジェクトの速度になるからです。
英語が出てくるのは、だいたい3か所です
では実際、どこで英語が出てくるのか。振り返ってみると、だいたい次の3か所に集約されます。
1つ目は、公式ドキュメントとエラーメッセージです。 弊社はAWSとAzureの両方を扱っていて、案件によってどちらも使います。クラウドの新しい機能や、細かい制約条件の一次情報は、やはり提供元が出している英語のドキュメントがいちばん正確で、いちばん新しい。日本語の解説記事は非常にありがたい存在ですが、内容が更新される前の版を指していることもあります。エラーメッセージも同じで、検索してもそのまま出てこない文言は、素直に原文を読んだほうが早いことが多いです。
2つ目は、システムのなかの固有名詞です。 長く使われてきた基幹システムには、英語の略語でできた項目名やステータス名が、画面ひとつに何十個と並んでいることもあります。これは翻訳するというより、用語集を作って「この業務では何を指すのか」を日本語で確定させていく作業になります。むしろ英語の問題ではなく、業務理解の問題です。
3つ目は、相手が海外にいる場面です。 これは案件によりますが、ドキュメントやチャットのやりとりが英語になることがあります。とはいえ、いきなり英語で交渉を任されるようなことはありません。そういう場面には、必ず経験のあるメンバーが一緒に入ります。
こうして並べてみると、比重が「読む」に大きく偏っているのがわかります。ゼロから英語で話し続ける仕事ではない、というのが実感です。

「読む英語」は道具で越えられる ── ただし原文に戻る箇所が3つあります
弊社では、生成AIを日常の開発プロセスに組み込んでいます。仕様やドキュメントの整理、コードの生成、レビューの補助といった場面で、それぞれ性格の違うツールを使い分けています。英語のドキュメントを読むときも、当然これらを使います。
ここ数年で、読むことのハードルは本当に下がりました。原文を貼り付ければ要点は返ってくるし、わからない単語で止まることもなくなりました。「英語が読めないから、この技術には手が出せない」という状態は、少なくとも実務のうえではほぼ解消されたと思っています。
ただし、丸ごと任せると危ない箇所もあります。私たちが気をつけているのは主に3つです。ひとつは否定形と条件です。「〜の場合を除いて利用できる」のような文は、要約されると条件だけが落ちることがあります。ふたつめは、数値や上限値。設計の前提になる数字は、必ず原文の該当箇所まで戻って確かめます。みっつめは、用語のゆれです。同じ単語が、その製品のなかでは特別な意味を持っていることがあり、一般的な訳語にすると意味が変わってしまいます。
だから私たちは、要約で全体像をつかみ、設計に効く箇所だけは原文にあたる、という読み方をします。全文を辞書を引きながら読む必要はありませんが、「ここは自分の目で確かめる」と決められることは必要です。そしてこれは英語力というより、どこが設計上の急所かを見抜く力のほうに近い。
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英語より先に効くのは、日本語の解像度です
ここまで書いておいて何ですが、もし「入社までに何を準備すればいいですか」と聞かれたら、私は英語とは答えません。
弊社の仕事は、お客様のビジネス課題を聞くところから始まります。業務を整理し、改善の方向を決め、そこで初めてシステムの話になり、最後にリリースまで担当する。この流れのなかで、いちばん成果を左右するのは上流の解像度です。
そして上流で使われる言語は、日本語です。会議で出てきた「だいたい月末ごろ」が、月末の営業日なのか、締め日なのか、翌月の1営業日なのか。ここを詰めきれるかどうかで、後の工程の手戻りがまるごと変わります。英語のドキュメントを読み違えるより、日本語の「だいたい」を放置するほうが、実は何倍も怖いのです。
だから採用面談では、英語の話はいつも短く終わります。代わりに、前職で誰にどう説明してきたか、うまく伝わらなかった経験をどう乗り越えたかを、じっくりうかがいます。
「外資系」という言葉を見て身構えてしまった方に、いちばん伝えたいのはここです。私たちが探しているのは、英語が堪能な人ではありません。わからないものに出会ったときに、立ち止まらずに手を動かせる人です。
必要になったときに、必要なぶんだけ読めるようになればいい。そのための道具はもう手元にあるし、先にその道を通ったメンバーが隣にいます。実際、いま英語のドキュメントを当たり前のように読んでいるメンバーも、最初から得意だったわけではありません。
応募のメールを書く前に、英語のことで迷っているのなら、どうか気にせず送ってください。お話ししたいのは、あなたがこれまで何を考えて仕事をしてきたか、そしてこれから何をやってみたいか。そちらのほうです。
清水洋太(しみず・ようた)
株式会社K.Platinum所属。エンジニアが力を発揮できる環境づくりを大切にしている。
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