こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
賃上げって、「業績が良かったからやるもの」だと思っていませんか。僕は思っていました。売上が伸びた年は上げる。厳しい年は据え置く。分かりやすいし、説明もしやすい。
でも今年出た調査を読んで、その前提がもう成立していないことに気づきました。しかもけっこう前から。
73.0%。そして、判断材料から消えていった「業績」
パーソル総合研究所が2026年7月30日に発表した「人事部トレンド定量調査2026」に、こういう数字がありました。
2026年度に賃上げを実施済み/予定している企業:73.0%
2022年の同社調査から11.2ポイント増。7割超が上げる時代になった、というだけならよくある話です。おもしろいのはその次でした。
賃上げ判断のための要素(上位)
- 1位:物価動向 … 29.7%
- 続いて:従業員の離職防止/優秀人材の採用強化
そして原典にはこう書かれています。4年前と比較すると、「予算達成度や業績の良し悪し」の要素が大きく減少した、と。
(※賃上げ判断要素の設問は原典でも「小サンプルのため参考」と注記があります。傾向として読むのが正しい数字です)
つまり、賃上げの理由の上位から、業績が抜けていっている。代わりに上がってきたのが、物価と、人が抜けること/来ないことでした。
もうひとつ、地味だけど重要な数字があります。「改定を実施しない」と答えた企業が激減し、代わりに「未定・分からない」が増えている。やらないと言い切れる会社が、ほとんどいなくなったということです。
賃上げが「分配」から「調達コスト」に変わった

この数字を見て、僕が腑に落ちた整理はこうです。
賃上げは、利益の「分配」から、人材の「調達コスト」に変わった。
分配なら、業績と連動します。儲かった年は多め、厳しい年は少なめ。上げ下げのロジックが社内で完結する。
でも調達コストなら話が変わります。業績が悪くても、払わないと人が来ない。そして一度上げたら、市場価格が下がらない限り下げられない。つまり、変動費だと思っていたものが、固定費になったということです。
「物価動向」が判断要素の1位に来ているのも、同じ話だと思っています。物価は自社の業績とは無関係に動く外部変数です。それが賃金決定の一番上に来ているということは、賃金がもう自社の内側だけでは決められなくなったという宣言に近い。
経営者としては、正直しんどい変化です。でも、しんどいと言っていても人は来ないので、うちは「そういうものとして設計し直す」ほうに振りました。
17人の会社で、上げる前に決めた3つのこと
うちは17人(うち8人が高専出身)の小さいITコンサル・受託開発の会社です。3期目。大企業のような給与テーブルの体系はまだありません。
だからこそ、金額を動かす前に決めたことが3つあります。
① 「何に対して払っているのか」を1行で書けるようにした
これが一番効きました。
上げるか上げないかの前に、そもそもこの人の報酬は何に対して払っているのかを、1行で書けるかどうか。書けないなら、上げても下げても説明できません。
「頑張ってくれているから」は理由になりません。頑張りは全員がしているので、差の説明にならない。うちは「任せている意思決定の範囲」と「その人が居ないと止まる工程」の2軸で書くようにしました。1行で書けないポジションは、そもそも役割の定義が曖昧だった、というだけの話です。
② 「市場価格に合わせる部分」と「自社の役割に払う部分」を分けた
賃上げの議論がこじれるのは、この2つを1つの金額で処理しようとするからです。
- 市場価格に合わせる部分=外部要因。その職種の相場が動いたら、業績と関係なく動かす
- 自社の役割に払う部分=内部要因。任せている範囲が広がったら上げる
分けておくと、「市場が動いたから上げた」のか「役割が変わったから上げた」のかを、本人に説明できます。逆に分けていないと、市場要因で上げたのに「評価された」と受け取られ、翌年据え置いた瞬間に「評価が下がった」と誤解されます。これ、けっこう事故ります。
③ 上げた分を「どこで回収するか」を先に決めた

固定費が増えるということは、回収先が要るということです。単価を上げるのか、工数を減らすのか、受ける案件の質を変えるのか。
うちの場合はAI前提の開発体制に寄せて、同じ人数で受けられる案件の幅を広げる方向で回収しています。同じ調査でも、AI活用度が高い企業ほど「一般事務職」は削減見込み(42.5%)で「デジタル・IT職」は増員見込み(56.3%)という結果が出ていました。AIは人を減らす道具ではなく、払える人の種類を変える道具として使われている、というのが実態に近いと思います。
回収先を決めずに上げると、翌年に「上げたのに苦しい」が来ます。上げたから苦しいのではなく、回収を設計しなかったから苦しい。
いちばん効いたのは、実は賃上げではなかった
同じ調査で、僕が一番重く受け止めたのは賃上げの数字ではありませんでした。
人事課題の重心が、2021年調査と比べて「既存人材の定着・活躍支援」へ移っている。上位は「従業員満足度・エンゲージメントの向上」「最適な人員配置」「従業員の定着/離職防止」。
これ、要するに採用で取り合うのを諦めた結果、いま居る人を壊さないことが最優先になったということだと思います。守りに寄っている、という見方もできますが、少人数の会社にとってはむしろ合理的です。
17人の会社で1人抜けると、単純に17分の1が消えるわけではありません。その人が持っていた顧客との文脈、書いていないルール、途中の判断。引き継ぎ資料には絶対に載らない部分が一緒に消えます。そのコストは、賃上げ数年分をあっさり超えます。
そして以前も書きましたが、若手が実際に辞める理由の上位からは、給与が落ちています(辞める理由から「給料」が落ちた2026)。辞めたいと思わせる理由が給与で、実際に足を動かす理由は別、という構造です。
だから、賃上げは「辞めさせない施策」としてはあまり効きません。効くのは、採用の入口で候補に入り続けるためです。目的を間違えると、払ったのに効果が測れない、という一番つらい状態になります。
——「何に対して払っているか」を1行で説明できる会社って、働くとどんな感覚なんだろう。そう思った方は、K.Platinumの募集要項からカジュアル面談だけでも申し込めます。
やりがちな失敗、3つ
うちも通ってきたやつです。
1. 賃上げを採用の武器にする
金額で来た人は、金額で抜かれます。うちの実感としても、入口で効くのは待遇で、残る理由になるのは働き方や任される範囲のほうでした。武器にするなら、上げた事実ではなく上げた理由(何に払っているか)を出すほうが機能します。
2. 一律で上げる
一見公平ですが、市場価格が大きく動いた職種だけが相対的に損をします。全員に同じ率で乗せるのは、外部変数を無視すると決めたのと同じことです。
3.「上げたのに辞めた」を失敗として処理する
これは失敗ではなく情報です。その人が辞めた理由は金額ではなかった、という結果が出ただけ。ここで「もっと上げるべきだった」に振れると、次も同じ理由で失います。
まとめ:決めるべきは「いくら」より「なぜ」
賃上げ73.0%、判断要素の1位が物価動向。この2つが意味しているのは、賃金がもう自社の業績の関数ではなくなったということです。
だとすれば経営側がやるべきなのは、金額を決めることではなく、何に対して払っているのかを説明できる状態を作ることだと思っています。それが書けていれば、上げる年も、上げられない年も、同じ理屈で話せる。書けていないと、上げた年しか話せません。
うちはまだ3期目で、制度としては全然できあがっていません。ただ、制度が無いうちに「なぜ払うか」だけ先に決めておくのは、たぶん正解に近い順番だと思っています。あとから制度を作るときに、書くことが決まっているので。
書いた人
沼田 海斗(ぬまた かいと)
株式会社K.Platinum 代表取締役。24歳で起業し、現在3期目・27歳。前職はスタートアップのITコンサルティング会社。現在は17名(うち高専出身8名)で、ITコンサルティング・受託開発・プログラミングスクール「ジゴカツ」の3事業を展開しています。
一緒に働く仲間を探しています
K.Platinumでは、エンジニア・ITコンサルタントを募集しています。
「何に対して払っているか」を1行で説明できる会社で働きたい方、任される範囲を自分で広げていきたい方は、ぜひ一度話しましょう。カジュアル面談からでも大丈夫です。

