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2026年10月5日

国の「健康経営」ハンドブックに、想定読者として僕らは書かれていなかった ── 社員十数名の会社が気づいた「制度は、作った時点では届いていない」

黒髪の若い男性が、図表や情報ポスターに囲まれた机で書類を読んでいる。周囲には、スタートアップ支援のテーマを強調する日本語のテキストやアイコンが表示されている。.

こんにちは。株式会社K.Platinum代表の沼田です。

2026年8月31日、経済産業省が「中小企業支援者向け健康経営の推進支援ハンドブック」というものを作った、というリリースを出しました。

タイトルを見た瞬間、「お、うち向けだ」と思ったんです。うちは社員十数名のITコンサル会社で、健康経営みたいな話は正直ずっと後回しにしてきた。国が教科書を作ってくれたなら読むしかない、と。

で、リリースを開いて、数分で気づきました。

これ、僕らに向けて書かれていない。

今日はその話をします。健康診断を受けましょうという話でも、認定を取りましょうという話でもありません。情報が届く経路の話です。書くのは3つ ── ①国はこの教材を誰に向けて作ったのか ②想定読者じゃない側は何を取れるのか ③同じ構造が社員十数名の社内でも起きていた。うちみたいな規模の会社を経営している人と、社内に制度を作ろうとしている人には、たぶん刺さります。


中身は普通にいい ── 意義・効果・支援ツールの3本立てで、無料

意地悪な記事にしたくないので先に言うと、ハンドブックの中身自体は中小企業がそのまま読めるものです。

原典によると、整理されているのは次の3項目。

  • 健康経営に取り組む意義・重要性
  • 健康経営の効果
  • 健康経営を推進するための支援ツール、補助金や支援団体

意義があって、効果があって、使える道具と相談先がある。教材としてまっとうな構成で、経産省のサイトから無料でダウンロードできます。

背景の記述には、読んでいて「わかる」と声が出ました。

少子高齢化や人手不足が進展する中、中小企業が持続的に成長していくためには、従業員の健康保持・増進を経営的な視点から実践する「健康経営」の取組が重要となっています。一方で、中小企業においては、人材及び時間的リソースの不足により、健康経営に関する情報やノウハウが得られず、取組が進んでいない企業も少なくありません。

人と時間が足りないから、情報もノウハウも手に入らない。だから進んでいない。

はい、うちのことです。

もう一つ気づいたのは、このリリースが経産省サイトでは「ものづくり/情報/流通・サービス」というカテゴリに置かれていることです。健康でも労働でもなく、産業政策の棚。担当も商務・サービスグループのヘルスケア産業課。

国は健康経営を、福利厚生ではなく産業競争力の話として扱っている。置き場所だけで伝わってくるものがあります。


「3.本ハンドブックの想定読者」に、中小企業そのものが書かれていない

問題はここ。リリースの3番目の見出しにはこうあります。

地域の金融機関や商工会議所・商工会、関係団体等の中小企業を支援する機関や専門家をはじめとする中小企業の支援に携わる皆様を想定読者としています。

金融機関。商工会議所。商工会。関係団体。専門家。……中小企業そのものが、想定読者として書かれていない。

さらにリリース冒頭のリード文まで戻ると、経路はもう少し広く「地域の金融機関、商工団体、保険者、自治体等の支援機関」。健康保険組合や協会けんぽ、市区町村まで含まれています。

配布の予定も明確です。経産省サイトからのダウンロードに加えて、9月上旬以降に全国の各支援機関等へ電子媒体を送付する予定、と書かれている。送られる先は支援機関であって、企業ではない。

そして原典は、このハンドブックを終始「本教材」と呼びます。読み物ではなく、誰かが誰かに説明するための道具。つまりこの資料は、銀行の担当者が中小企業の社長に健康経営を説明するときのカンペなんですね。僕は勝手にカンペを盗み読みした側です。


ここが本題:国は「直接言っても届かない」と判断した

情報は、経路がないと届かない

最初は「なんだ、対象外か」とがっかりしました。でも読み返して、そうじゃないなと思い直した。

さっき引用した「人材及び時間的リソースの不足により、情報やノウハウが得られず、取組が進んでいない」という一文。これ、中小企業が取り組まない理由に見えて、実は情報が届いていない理由として書かれているんです。だから対策が「中小企業向けにわかりやすい資料を作る」ではなく、「支援機関向けの教材を作って全国に送る」になっている。

順番が逆なんですよ。普通なら伝えたい相手に直接いい資料を渡すのが最短で、国もさんざんやってきた。でも今回は、あいだに人を一段挟んだ。これはたぶん、「直接出しても、忙しい中小企業は読みに来ない」という現実を国が正面から認めたということだと思うんです。

情報は、置いてあるだけでは届かない。届ける経路が要る。そして経路として選ばれたのが、中小企業が普段から接している相手でした。銀行の担当者。商工会議所の人。加入している健保。市役所。うちに一番よく来るのも、まさにその人たちです。

制度は、作られた時点では届いていない。届ける人が、別に要る。


想定読者じゃない側が取れる実利は、2つある

じゃあ「対象外」の僕らはどうするか。うちに健康経営の情報が入ってくる経路は、現状ほぼゼロです。産業医も人事専任もいませんし、顧問の社労士さんと毎月みっちり話しているわけでもない。情報が入ってこないのは怠けているからというより、単に線がつながっていないからです。

1つめ。これから来る提案の「出どころ」がわかる。

9月上旬以降、全国の支援機関に電子媒体が配られます。ということは、この秋、取引のある金融機関や商工会議所から健康経営の話が来る可能性がそれなりにある。

そのとき、「またなんか営業が来たな」と反射的に処理せずに済みます。背後に国の教材があると知っていれば、話の聞き方が変わる。 相手が売りたいものの話なのか、教材に載っている一般論なのかを切り分けられる。地味ですが、時間の節約としてかなり効きます。

2つめ。経路のほうを、こちらから作りにいける。

支援機関からの働きかけを待つのは受け身ですし、うちはそもそも接点のある機関が少ない。だったら資料は自分で取りに行けばいい。このハンドブックも誰でもダウンロードできます。想定読者じゃないだけで、閲覧を止められているわけではない。

ちなみに補助金や支援団体も紹介されていますが、うちは社労士事務所でも申請支援業者でもないので、どの制度が使えるか・要件を満たすかは断定できません。そこは専門家か所管の窓口へ。ここでは「そういう情報がまとまっている場所がある」までにしておきます。

この「原文を先に開く」やり方で、普段の仕事もしています。
K.Platinumは業務整理から開発・リリースまでを一気通貫で担うITコンサル会社です。→ エンジニア募集中!仕事内容と条件を見る


使われていない制度の理由は、たいてい「知らなかった」だった

つくる ≠ 届く

ここからは自社の反省。この「経路がないと届かない」という構造、社員十数名の会社の中でもまったく同じことが起きていると気づきました。

うちには制度がいくつかあります。有休の取り方のルール、リモート勤務の運用、副業の申請ルール、資格取得のサポート。作るときはちゃんと考えて作りました。ドキュメントにもした。

でも、使われていないものがある。

理由を聞いてみると、たいてい「知らなかった」か「知ってたけど、自分が使っていいものだと思ってなかった」のどちらかです。制度の設計が悪かったわけじゃない。届いていなかった。

十数名ですよ。全員の顔が見える人数で、全社チャンネルに一度投げれば理屈の上では全員に届く。それでも「作った人だけが知っている」は起きる。

国が全国の中小企業に対してやったことと、僕が社内でやるべきことは、同じ形をしています。制度を作る仕事と、届ける仕事は別の仕事なんです。前者だけやって「作った」と言っていたのが、僕の失敗でした。

で、経路として何を使うか。国が金融機関や商工会議所を選んだのと同じ発想で、社員が普段から接しているものを選びます。うちの場合は日々のやりとりが流れる場所と、1on1と、オンボーディング。制度のドキュメントを更新することと、それを流す経路を決めることを、セットで1つのタスクにする。

もう一つ、書き方も変えます。制度の説明を「何が使えるか」からではなく、「何のために作った制度なのか」から書く。「自分が使っていいと思ってなかった」は、条件が分かりにくい話ではなく、誰のための制度かが伝わっていない話なので。

いまやっているのはそこまで。効果を語れる段階ではないので、うまくいったらまた書きます。


まとめ:想定読者に入っていない資料を読むと、構造が見える

  • 経産省が2026年8月31日、健康経営のハンドブックを公開した。中身は3本立てで、無料でダウンロードできる
  • ただし想定読者は中小企業を支援する側(金融機関・商工会議所・商工会・関係団体・保険者・自治体など)で、中小企業そのものではない
  • それは国が「直接出しても届かない」と判断したということであり、制度は作った時点では届いていないという前提に立っている
  • 同じことが、社員十数名の会社の社内でも起きる。制度を作る仕事と、届ける仕事は別

うちは今後も、想定読者に入っていない資料を勝手に読む側でいます。支援機関経由で情報が回ってくるのを待つより速いので。誰かがかみ砕いてくれるのを待つより原文を開いたほうが早い、という感覚を共有できる人と働きたいと思っています。

2023年にこの会社を立ち上げて、3年あまり。まだ「制度を作ったつもりで届けていなかった」ことに気づく段階にいます。気づいたら直す、を続けます。


沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。2023年に同社を設立。業務整理から開発・リリースまでを一気通貫で担うITコンサルティングを軸に、プログラミングスクール事業、自社プロダクト開発を手がける。


K.Platinumでは一緒に働くエンジニアを募集しています。「実力で正当に評価される環境」に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。


本記事は2026年9月時点の公開情報に基づいています。出典:経済産業省『健康経営の中小企業への裾野拡大に向けて「中小企業支援者向け健康経営の推進支援ハンドブック」を作成しました』(2026年8月31日公表)。「健康経営®」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。補助金・助成金の受給可否や申請要件については専門家または所管窓口にご確認ください。

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