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2026年10月10日

倍率6.3倍のニュースの中身を見たら、機械職は1.5倍だった

あるビジネスマンが、6.3と表示された大きなデジタルディスプレイに懐中電灯を照らすと、ディスプレイが開き、その中からミニチュアのオフィス用ファイルや図表が現れる。見出しには6.3倍の中身と書かれている。.

同じ組織の、同じ試験の、同じ発表資料の中に、8.8倍と1.5倍が並んでいました。 ニュースの見出しになるのは、たぶんその平均値である「6.3倍」のほうです。

こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。

有効求人倍率とかエンジニアの求人倍率とか、そういう数字は毎月わりと真面目に見ています。採用をやっている以上、外の温度は知っておきたいので。

ただ、先日ちょっと恥ずかしい気持ちになりました。

東京都が9月3日に、都職員の採用試験の申込状況を発表していたんです。同じ東京で人を採っている、すぐ隣の組織の実数です。それを僕は、一度も見たことがありませんでした。全国平均は毎月見ているのに。

読んでみたら、思っていたのと全然違う話が書いてありました。

※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。


まず、発表されていた数字 ── 合計6.3倍と、その内訳

東京都人事委員会事務局『令和8年度東京都職員Ⅱ類、Ⅲ類採用試験の申込状況について』(2026年9月3日)から、原典の表のとおりに並べます。

Ⅲ類(合計)
- 令和8年度:採用予定146人/申込922人/倍率6.3倍
- 令和7年度:採用予定166人/申込724人/倍率4.4倍

4.4倍から6.3倍。ニュースの見出しになるとしたら、たぶんここです。「都庁の採用試験、倍率が上昇」。

でも、職種別の内訳が同じ表に載っていました。

Ⅲ類 事務
- 令和8年度:90人/795人/8.8倍(令和7年度は100人/596人/6.0倍)

Ⅲ類 技術(小計)
- 令和8年度:56人/127人/2.3倍(令和7年度は66人/128人/1.9倍)
- 土木:40人/90人/2.3倍
- 建築:1人/7人/7.0倍
- 機械:6人/9人/1.5倍
- 電気:9人/21人/2.3倍

同じ組織の、同じ試験日の、同じ発表資料の中に、8.8倍と1.5倍が並んでいます。


核①:倍率が上がった理由の、半分は「枠が減ったこと」

同じ会社の中で、倍率が違う

倍率は、申込者数 ÷ 採用予定者数です。当たり前ですが、分子が増えても、分母が減っても上がります。

Ⅲ類合計を、前年と引き算してみます。ここから先の増減は、原典の表から僕が自分で計算したもので、原典にその数字が書いてあるわけではありません。

  • 申込:724人 → 922人(+198人)
  • 採用予定:166人 → 146人(−20人)

両方動いています。 応募が増えたのも事実だし、枠が減ったのも事実。

これ、採用の会話でわりと混ざる話だなと思いました。「うちの倍率が上がった」と言うとき、たいてい人気が出た文脈で語られます。でも実際には、採用計画を絞っただけで倍率は上がる。倍率は人気の指標のように見えて、供給と需要の比でしかない。

だから倍率が上がった/下がったを聞いたら、次に聞くべきは「分子と分母、どっちが動きましたか」だと思います。


核②:増えた198人は、まるごと事務だった

さらに引き算を続けます。

  • 事務の申込:596人 → 795人(+199人)
  • 技術の申込:128人 → 127人(−1人)

Ⅲ類全体で増えた198人は、ほぼそのまま事務の増加分です。技術職の応募者は、増えるどころか1人減っている。

これはけっこう効きました。

東京都は、日本でいちばん大きな自治体です。待遇も研修も安定性も、うちのような十数人の会社が逆立ちしても出せないものを持っている。それでも、技術職の応募者数は前年比で横ばいなんです。

僕はこれを「公務員離れ」だとか「都庁が不人気」だとは読みません。だってⅢ類全体の申込は198人増えているので。事務には人が集まっています。

読み取れるのは、もっと単純なことです。技術職の採用は、規模や安定性では解決していない。 東京都でそうなら、うちがどう頑張っても、そこは同じ条件です。

じゃあ何が効くのか、という話は正直まだ答えを持っていません。ただ少なくとも、「もっと有名になれば」「もっと待遇を良くすれば」という方向の努力が、この数字を見る限りでは決定打ではなさそうだ、というのは分かりました。うちが勝負するとしたら、規模で並べない場所を選ぶしかない。


「倍率」という指標は、母数が小さいと壊れる

分母が小さいと、暴れる

同じ表を見ていて、もう1つ気づいたことがあります。

Ⅲ類 建築:採用予定1人/申込7人/7.0倍。

7人しか応募していないのに、事務の8.8倍に近い数字が出ています。分母が1人だからです。

Ⅱ類はもっと極端でした。

  • 司書:採用予定1人/申込45人/45.0倍
  • 栄養士:採用予定6人/申込109人/18.2倍
  • Ⅱ類合計:7人/154人/22.0倍(令和7年度は14人/162人/11.6倍)

45.0倍という数字だけを取り出すと、とんでもない難関に見えます。でも中身は「1人の枠に45人」です。もし採用予定が2人だったら、同じ45人でも22.5倍になる。枠が1人動くだけで、倍率は倍になったり半分になったりする。

これは他人事じゃありませんでした。うちみたいな十数人の会社の採用倍率は、まさにこの壊れ方をします。

1人の募集に20人応募が来れば20倍です。翌年、2人募集にして同じ20人なら10倍。「倍率が半分に落ちた、人気が落ちたのでは」——落ちてません。枠を増やしただけです。

小さい組織ほど、比率で語ると数字が暴れます。十数人の会社が語るべきなのは、比率ではなく実数なんだと思いました。何人募集して、何人来て、何人に会って、何人が決まったか。それを言うほうが正確だし、聞くほうも判断できる。

うちの募集も、比率ではなく実数で書いてあります。 何人のチームで、どんな案件を、どう進めているのか。平均や一般論ではなく、いまの体制をそのまま載せた募集要項です。→ エンジニア募集中! 仕事内容と条件を見る


新しく作った枠の初年度は、比較対象を持っていない

同じ日に、都はもう1本発表を出していました。『令和8年度障害者・難病患者を対象とする東京都職員Ⅲ類採用選考の申込状況について』です。

こちらの数字も原典のとおりに引きます。

  • 障害者を対象とする区分(事務):令和8年度 40人/353人/8.8倍(令和7年度 40人/357人/8.9倍)
  • 難病患者を対象とする区分(事務):令和8年度 5人/141人/28.2倍(令和7年度は「−」)
  • 合計:45人/494人/11.0倍(令和7年度 40人/357人/8.9倍)

原典の冒頭に、「今年度から、新たに難病患者を対象とする区分を追加して実施しています」と書かれています。だから令和7年度の欄が「−」なんですね。

ここで一度立ち止まりました。28.2倍は、高いのか低いのか。

判定できません。前年が無いので。比較対象を持たない数字は、大きく見えても評価のしようがない。合計の倍率が8.9倍から11.0倍に上がっているのも、枠と区分の構成が変わった結果であって、単純な前年比としては読めない。

(なお、この2本の発表について僕が書けるのは数字までです。応募された方の属性や、制度そのものの是非を論じる立場にはありません。)

うちにも同じことが起きます。新しいポジションを初めて募集した年の数字は、去年と比べられません。 それでも僕らは「思ったより来なかった」「意外と集まった」と言ってしまう。何と比べて、なのか。たいていは頭の中の期待値と比べているだけです。

基準を持たないまま出した感想を、データみたいな顔で社内に流すのはやめよう、と思いました。


隣の組織の実数を見る、という習慣

この発表を読んで、いちばん役に立ったのは、実は個々の数字ではありませんでした。

同じ東京で人を採っている組織の、実数の表が公開されているという事実です。しかも職種別の内訳つきで、前年との並びつきで。

前に別の記事で「全国平均で自社を語ると、実在しない平均的な会社と比べていることになる」ということを書きました。今回のはその続きみたいな話で、比較対象は平均じゃなくて実数のほうがいい、というだけのことです。

もちろん、都庁とうちでは条件が違いすぎます。同じ土俵ではない。それでも、「技術職の応募者数は増えていない」という事実は、規模に関係なく効いてくる情報でした。

ちなみに今回の試験の第1次は9月13日、最終合格発表は11月13日です。申込922人が最終的に何人になるかは、そのときにまた出る。倍率の話は、実はそこまで見ないと終わらないんですよね。申し込んだ人が全員受験するわけでもないので。

というわけで、11月にもう一度見に行こうと思っています。数字は、続きを見るところまでやって初めて意味が出るので。


まとめ

倍率が上がったと聞いたら、まず分子と分母のどちらが動いたのかを見る。合計ではなく職種別の内訳まで開く。母数の小さい枠は倍率が暴れるので、比率ではなく実数で語る。新設の枠は前年を持たないので、増えた・減ったの感想はいったん保留する。今回の表から持ち帰ったのは、この4つの手つきでした。6.3倍という数字そのものより、こちらのほうが長く使えます。


沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum 代表。製造・金融業界でのキャリアを経てK.Platinumを設立。エンジニアが正当に評価される会社をつくることをテーマに、事業と組織の両方を見ている。


K.Platinumでは一緒に働くエンジニアを募集しています。「実力で正当に評価される環境」に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。


出典
東京都人事委員会事務局『令和8年度東京都職員Ⅱ類、Ⅲ類採用試験の申込状況について』(報道発表 2026年9月3日)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/09/2026090305
東京都人事委員会事務局『令和8年度障害者・難病患者を対象とする東京都職員Ⅲ類採用選考の申込状況について』(報道発表 2026年9月)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/09/2026090302
照会先:人事委員会事務局試験部試験課 03-5320-6952

註記
本文中の採用予定者数・申込者数・倍率・試験日程、および「今年度から新たに難病患者を対象とする区分を追加して実施している」旨は、いずれも上記2つの報道発表に記載されている内容です。前年比の増減(申込+198人、事務+199人、技術−1人、採用予定−20人)は、原典の表から筆者が計算したものであり、原典に記載されている数字ではありません。 「倍率は人気の指標ではなく供給と需要の比である」「母数が小さい職種は倍率が暴れる」「新設区分の初年度は比較対象を持たない」といった読み解きは筆者の解釈であり、東京都が示した見解ではありません。本記事は公務員試験の受験対策・合否見通しを論じるものではなく、特定の職種や組織の人気・不人気を評価するものでもありません。障害者・難病患者を対象とする区分については、公表された数値を事実として引用したのみで、応募者の属性や制度の是非については論じていません。数値は令和8年度と令和7年度の2か年のみで、それ以前の経年比較は原典に記載がないため行っていません。自社の採用に関する記述は既に公開している範囲(十数人規模・設立から3年あまり)にとどめ、社員個人・応募者個人を特定できる情報は含んでいません。試験区分の正式表記はローマ数字(Ⅱ類・Ⅲ類)です。

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