こんにちは、K.Platinum代表の沼田です。
採用ツールの資料を並べて比較していたとき、僕が見ていたのは機能と月額と導入実績くらいでした。スカウト文面の自動生成、応募者の自動スクリーニング、面接日程の自動調整。どれも便利そうで、どれも「で、いくら?」で終わっていた。
そのサービスが何の法律の下で事業をやっているのか、という欄は、僕の比較表にありませんでした。
その欄が要るかもしれない、と思ったのは、令和8年7月21日に閣議決定された『規制改革実施計画』の実施事項に、こういう項目が入っていたのを見たからです。
「AIを活用した採用代行の職業安定法上の許可要否及び許可要件の明確化」
実施時期は「令和8年度上期結論」。つまり2026年9月末までに、国が結論を出すと決めている。
うちは17人の受託開発・ITコンサルの会社です。社労士事務所でも法律事務所でもないので、どのサービスに許可が要るかという判断はしません。この記事では、なぜこの1行が採用ツールを買う側にとって重要なのかと、結論が出るまでの間に発注側ができることだけを書きます。
「明確化する」と書いてある、ということは、今は明確でないということ
この項目でいちばん重要なのは、たぶん動詞です。
規制すると書いてあるわけでも、緩和すると書いてあるわけでもない。「明確化する」と書いてある。行政が使う言葉としてこれは、現時点でグレーだと国が認めたという意味に近い。
そして、明確化の対象になっているサービスは、いま普通に売られていて、普通に導入されています。市場が先に走り、制度が後から線を引きにいく。引かれたときにどちら側に立っているかは、まだ誰にも確定的には言えない。
念のため強調しておくと、これは「いま出回っているサービスが違法だ」という話ではまったくありません。適法だと確認されるための線引きがまだ引かれていない、というだけの話です。この2つはぜんぜん違う。
厚生労働省が規制改革推進会議に出した資料でも、問題設定は「取り締まる」ではなく、デジタル技術の活用が進んだ結果として解釈が明確でなくなっているので、ガイドライン等で明確化し、公正な競争環境を整備すべきという書かれ方をしています。
そもそも職業安定法は、採用まわりの事業をどう分けているのか — 分かれ目は「あっせん」の有無

ここは最小限だけ整理します。条文解釈には踏み込みません。
① 有料職業紹介事業。 厚生労働大臣の許可が要ります。要件も手続きもいちばん重い。
② 募集情報等提供事業。 求人サイトや求人情報誌のように、求人・求職の情報を提供する事業です。令和4年10月1日施行の改正職業安定法で、この「募集情報等提供」の範囲そのものが拡大されました。
③ 特定募集情報等提供事業。 ②のうち、求職者に関する情報を収集して情報提供に使用しているものを指し、こちらは事前の届出が必要です。届出事項の変更や事業の廃止にも、期限付きの届出義務があります。
で、①と②③の分かれ目はどこかというと、「あっせん」をしているかどうかです。
ここからがAIの話に効いてきます。厚生労働省は「求人情報・求職者情報の提供(募集情報等提供)と職業紹介の許可等が必要な場合の区分について」という文書を出していて、そこで示されている考え方は、ざっくり言うとこういう対比です。
- あらかじめ客観的に設定された検索条件によって情報が出てくる → 募集情報等提供
- 事業者の判断により選別した情報のみを提供する/相手に応じて加工して提供する → 職業紹介と判断されうる
……選別と加工。
AIを使った採用支援サービスが売り文句にしているのは、だいたいこの2つですよね。「膨大な候補者から自社にマッチする人だけを抽出します」「候補者ごとに最適化されたスカウト文を生成します」。
つまり論点は、アルゴリズムがつけたスコアは「あらかじめ客観的に設定された検索条件」なのか、それとも「事業者の判断」なのかという一点に集まります。学習データも重み付けも事業者が決めている以上、単純な検索条件と同じとは言い切れず、かといって人の判断と同じとも言い切れない。だからこそ明確化の対象になった、というのが素直な読み方だと思います。
時間軸も押さえておくと、規制改革推進会議のAIワーキング・グループには、2026年2月13日に厚生労働省の職業安定局需給調整事業課から「AI等を活用した採用代行(RPO)の職業安定法上の課題と明確化」という資料が提出されています。課題の認識が今年2月、結論の期限が9月末、という速さです。
発注する側から見ると、これは「与信」の話に近い — 契約前に聞く3つの質問

じゃあ、結論が出るまでの1か月弱、採用ツールの検討を止めるべきかというと、僕はそうは思っていません。止めても得られる情報が増えるわけではないので。
代わりにうちがやったのは、比較表に列を1つ足すことでした。聞くのは3つです。
① このサービスは、職業安定法上どの事業として届出または許可を受けていますか。
これに1分で答えられる会社と、持ち帰る会社と、質問の意味が伝わらない会社に、きれいに分かれます。分かれること自体が情報だと思っています。制度の側が動いている領域で商売をしていて、自社の立ち位置を即答できないのは、それ自体が答えなので。
しかもこれ、相手を信用するかどうかの話ではなく、確認できる話です。厚生労働省は特定募集情報等提供事業者の一覧を公表していて、令和8年8月1日時点版がExcelとPDFで置かれています。同省の「人材サービス総合サイト」でも事業者を検索できる。聞いた答えと、公表されている一覧を突き合わせられる。
② 候補者の絞り込みは、最終的に誰が決めていますか。
「AIが推薦して、最終判断は御社です」なのか、「AIが選んだ人だけが御社の画面に出ます」なのか。UI上は似ていても、後者は自社が見ていない候補者が存在するということです。これは法律以前に、採用の設計として知っておくべきことだと思う。
③ 求職者側から、御社はどう見えていますか。
意外とここが抜けます。令和7年4月施行のルールでは、求職者になろうとする人に金銭やギフト券等を提供することが原則禁止になり、利用料金や違約金の定めも、誤解が生じないよう事前に明示することが必要になりました。求職者に何を約束しているサービスなのかは、うちの会社の見え方に直結します。
ついでに書いておくと、法令遵守や個人情報保護、募集情報等の的確な表示などについて一定の基準を満たした事業者を認定する「優良募集情報等提供事業者認定制度」(厚生労働省委託事業・2022年度創設)という仕組みもあり、2026年4月1日時点の認定事業者は42件です。認定の有無で選べという話ではないですが、確認の材料は思っているより公開されています。この3つを聞いて、公表資料と突き合わせる。うちの場合、ここまでで30分でした。
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3年前と違うのは、「知らなかった」が通りにくくなったこと
24歳で独立して、いま3期目です。創業のころは「まず動かして、問題が出たら直す」でだいたい回していましたが、その感覚が通じにくくなったな、と最近思います。
採用ツールは、自社の外側に個人情報を出す仕組みです。応募者からすると、職歴と連絡先を渡した相手はうちの会社で、その先で何が起きているかは見えない。説明を求められたときに「ベンダーがやっていたので」と言うのは、たぶんもう成立しない。
これは受託開発をやっている立場だと、逆側からよく分かります。うちがシステムを作って納品したあと、その画面で何が起きても「仕様どおり作っただけです」で全部が終わることはない。作る側にも、頼む側にも、それぞれの説明責任が残る。 採用ツールでも同じ構造だと思っています。
だから僕は、この論点を「規制が来るぞ」という話としては受け取っていません。自社が何を外注しているのかを、自分の言葉で説明できるかという話として受け取っています。線が引かれたあとで慌てる会社と、引かれる前に自分で数えていた会社の差は、たぶんそこにしか出ない。
まとめ — 9月末に結論が出る。出たときに読める状態にしておく
整理します。
- 令和8年7月21日閣議決定の『規制改革実施計画』に、AIを活用した採用代行の職業安定法上の許可要否および許可要件を明確化するという実施事項が入った
- 実施時期は令和8年度上期結論=2026年9月末
- 分かれ目は「あっせん」の有無。あらかじめ客観的に設定された検索条件なら募集情報等提供、事業者の判断による選別・加工は職業紹介と判断されうる、という考え方が示されている
- AIによるスコアリングがどちらにあたるのかは、まさにこれから明確化される
- 発注側が今日できるのは、①どの事業として届出・許可を受けているか ②絞り込みの最終判断は誰か ③求職者からどう見えているか の3つを聞き、公表されている事業者一覧と突き合わせること
同じ実施計画には「AI時代に対応する規制・制度改革の在り方」という、もっと大きな項目も入っています。採用に限らず、AIを使う側の足元のルールが、いま書かれている最中だということです。
できることは多くない。ただ、結論が出た日に「うちが使っているのはどれだったか」を即答できる状態にしておくのは、今日からできます。うちは比較表に列を1つ足しただけです。
9月末に何が出るかは、僕にも分かりません。出たら、この記事に追記します。
※ 本記事は2026年9月2日時点の公開情報にもとづきます。令和8年7月21日閣議決定の『規制改革実施計画』に基づく検討であり、同日時点で結論は未公表です。個別のサービスや自社の取組が職業安定法上どの事業に該当するか、許可・届出が必要かどうかの判断は、管轄の都道府県労働局または社会保険労務士・弁護士にご確認ください。本記事は特定の事業者の適法性を評価するものではありません。
参考:
- 内閣府『規制改革実施計画』(令和8年7月21日 閣議決定)
- 内閣府 規制改革推進会議 AIワーキング・グループ(令和8年2月13日)資料2-3 厚生労働省職業安定局需給調整事業課『AI等を活用した採用代行(RPO)の職業安定法上の課題と明確化』
- 厚生労働省『募集情報等提供事業について』
- 厚生労働省『求人情報・求職者情報の提供(募集情報等提供)と職業紹介の許可等が必要な場合の区分について』(令和4年10月1日適用)
- 厚生労働省委託事業『優良募集情報等提供事業者認定制度』認定事業者一覧(2026年4月1日時点)
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum 代表。24歳で独立し、受託開発・ITコンサルティングとプログラミングスクール事業を手がける。「エンジニアが正当に評価される社会」を掲げ、制度や技術の変化を現場の意思決定に翻訳することを大切にしている。
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