こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
うちの求人票には、勤務地として東京と書いてあります。会社紹介にも「東京の受託開発会社です」と書いています。書いているのは僕です。
その東京に事業所がいくつあって、そのうち何割が中小企業なのか。僕は答えられません。3年半、東京の会社の代表をやっていて、一度も調べたことがなかったからです。
で、先日こういう発表を見ました。
「東京の産業と雇用就業2026」を発行しました
— 東京都産業労働局、2026年9月4日
読む前に、少し嫌な気持ちになりました。東京の会社ですと自分で書いておきながら、その東京がどういう形をしているのかを、僕は一度も調べたことがなかったからです。
※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。
まず、これが何の本なのか ── 4部構成・全文無料の統計集
発表されている事実だけ、先に並べます。
発行は東京都産業労働局。基になっているのは「経済センサス」や「就業構造基本調査」(いずれも総務省)をはじめとする各種統計データです。
構成は4つに分かれています。
- 第Ⅰ部 東京経済・雇用情勢の概況(2025年の主な動き、5つのトピックから捉えた東京 など)
- 第Ⅱ部 産業編(産業別=製造業・商業・情報通信など の事業所数、従業者数、中小企業数 など)
- 第Ⅲ部 雇用就業編(東京の就業構造の変化や、就業者を取り巻く状況 など)
- 資料編(産業・雇用就業統計基本データ集 など)
そして産業労働局のホームページに全文が無料で掲載されています。同時に、都民情報ルーム(都庁第一本庁舎3階)で本体価格1,862円+税でも売られている。
先に正直に書いておくと、僕はこの記事を書くにあたって本文のPDFを読めていません。ダウンロードは通るのですが、こちらの環境ではテキストとして取り出せませんでした。なので以下に具体的な数字は一切出てきません。数字を持っていない人間が、この本の「作り」だけを見て書いています。
それでも書く価値があると思ったのは、僕がいちばん引っかかったのが数字ではなく、この本の作り方のほうだったからです。
「厳選」と「比較」は、編集方針だった

発表資料に、この本の特徴が2つ挙げられていました。
- 国や都が公表している幅広い統計資料から、データを厳選してグラフ化
- 東京の多彩な産業と雇用就業の現状を、全国のデータと比較
読み流しそうになりましたが、これ、そのまま「資料の作り方」の話です。厳選する。比較する。それ以外のことは書いていない。
で、うちの採用の話に戻るんですが。
採用について世の中に出ている記事は、ほぼ全部が全国平均で書かれています。 有効求人倍率が何倍、離職率が何%、平均勤続年数が何年。僕もそういう数字を引いて考えてきました。
でも、うちが人を採っているのは全国ではありません。東京の労働市場です。そして候補者がうちと比べているのも、全国のどこかの会社ではなくて、同じ東京で同じような募集を出している会社です。
だとすると、全国平均を持ってきて「うちは平均よりこう」と言うのは、厳密には誰とも比べていないことになります。比較対象が、実在しない平均的な会社になっている。
これは前に書いた話とつながっていて、スキルシートの5段階評価を読むとき、僕は「何と比べて4なのか」を聞くようにしています。前職の中で4なのか、業界で4なのか、去年の自分と比べて4なのか。同じ4でも意味が違うので。
自分の会社を語るときだけ、その問いを自分に向けていなかった。 それが読んでいていちばん刺さったところでした。
この記事を書いている会社が、実際に何をどう作っているのか。 平均や一般論ではなく、うちの案件と体制をそのまま書いた募集要項があります。→ エンジニア募集中! 仕事内容と条件を見る
選ばなかった数字は、無いのと同じ
もう1つ、「厳選して」のほうです。
幅広い統計から厳選する、というのは裏を返せば載せなかったデータのほうが圧倒的に多いということです。何を載せて何を載せないかは、作った人が決めている。
これは資料を批判しているのではなくて、むしろ逆で、厳選したと明記してあるのが誠実だと思いました。全部載っていますという顔をされるより、選びましたと書いてあるほうが、読む側は身構えられる。
うちの会社でも同じことが起きています。
僕が社員に共有している数字は、案件の進捗と、売上と、稼働の状況くらいです。それ以外にも数えられることは山ほどあるのに、数えていない。数えていないものは、良くも悪くも会社の中に存在していないことになっています。
離職率も、有休の取得率も、レビューにかかっている時間も、数えれば出てくる。十数人の会社なので、数えられない量ではない。それでも数えていないのは、厳選した結果ではなく、単に選んでいないだけです。この2つは全然違う。
毎年出ている、ということの意味

刊行物のページを見に行って、もう1つ気づいたことがありました。
この本、毎年発行されています。 そしてバックナンバーが並んでいる。
数字を1個持っていることと、同じ物差しで何年か並べられることは、まったく別の話です。今年の東京の数字を1個知っても、それが多いのか少ないのか、増えているのか減っているのかは分からない。並べて初めて意味が出る。
ただし、ここは慎重に書いておきます。基になっている経済センサスや就業構造基本調査は毎年やる調査ではありません。 なので「毎年発行されている本だから、毎年の変化が単純に追える」とは限らない。同じ本が並んでいることと、同じ物差しが並んでいることも、また別です。このあたりは本文を読める人が確かめてください。
それでも、毎年出るものを毎年見る、という運用そのものには意味があると思っています。
うちが会社の数字を見るのは、たいてい何かが起きたときです。人が辞めたとき、赤字になりそうなとき。問題が起きてから見る数字は、比較対象を持っていません。 平常時のデータを持っていないので、いま起きていることが異常なのかどうかも判断できない。
毎年決まった時期に、決まった項目を、同じ形で並べる。地味ですが、それをやっている組織は強いです。
無料で読めるものを、有料でも売っている
最後に、細かいけれど好きだった点を。
この本は産業労働局のサイトに全文が無料で載っています。 そのうえで、都民情報ルームで本体価格1,862円+税でも売られている。
無料で読めるものに値段がついているのは、変な話に見えます。でも、実際に自分がPDFを開いて挫折した後だと、製本された形で手元に置けることに1,862円の価値がある人はいるだろうなと素直に思いました。
情報を持っていること自体には、もう値段がつきません。国も都も、こういう資料をどんどん無料で出しています。値段がついているのは、読める形になっていることと、読んで使うことのほうです。
うちの仕事も、たぶん同じ側にあります。技術情報は全部公開されているし、AIに聞けば大抵のことは返ってくる。それでもお客さんが会社に発注するのは、その情報を、自分たちの状況に合わせて読んで、決めるところが残っているからです。
というわけで、まずは本文を読める形で手に入れるところからやります。求人票に「東京の会社です」と書き続けるなら、その東京の形くらいは知っておきたいので。
まとめ
統計集を1冊眺めて手に入れたのは、数字ではなく3つの問いでした。自分の会社を語るとき、何と比べているのか。数えていない数字を「無い」ことにしていないか。同じ物差しで並べられるものを、どれだけ持っているか。
どれも、資料がなくても自分に向けられる問いです。それでも、厳選して・比較して・毎年出し続けるという他人の仕事を見るまで、僕は向けていませんでした。会社を語る言葉が雑になっていないかは、外から測り直すしかないのだと思います。次は本文を読んで、うちの会社を東京の中に置いてみます。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum 代表。製造・金融業界でのキャリアを経てK.Platinumを設立。エンジニアが正当に評価される会社をつくることをテーマに、事業と組織の両方を見ている。
K.Platinumでは一緒に働くエンジニアを募集しています。「実力で正当に評価される環境」に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。
出典
東京都産業労働局『「東京の産業と雇用就業2026」を発行しました』(報道発表 2026年9月4日)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/09/2026090405
東京都産業労働局『東京の産業と雇用就業』(刊行物ページ・全文掲載)
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/data/sangyo/koyou
註記
本記事は、上記2ページに記載されている内容(発行主体・発行日・基データ・特徴・構成・掲載方法・販売価格・毎年発行である旨)のみを事実として扱っています。刊行物の本文PDFは筆者の環境で本文を取り出せなかったため、本記事には統計値を一切記載していません。「全国平均で自社を語ると誰とも比べていないことになる」「選ばなかった数字は無いのと同じ」「毎年出るものを毎年見ることに意味がある」といった読み解きは、資料の構成と特徴の記載から筆者が考えたものであり、東京都が示した見解ではありません。基となる経済センサス・就業構造基本調査は毎年実施される調査ではないため、経年比較の可否は本文および各調査の注記をご確認ください。本記事は東京と他地域の優劣を論じるものではありません。資料の内容・入手方法については東京都産業労働局総務部企画調整課(03-5000-7826)にご確認ください。

