こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
製造業のお客さんと初回の打ち合わせをすると、だいたい同じところから話が始まります。
「そろそろウチもDXをやらないとまずいと思っていて。まず基幹システムを入れ替えようかと」
気持ちはものすごくよく分かります。生産管理も在庫も原価も、全部が20年前のシステムに乗っかっていて、そこが全部の詰まりの原因に見える。だから一番大きい岩から動かそうとする。
でも僕は、この話を聞くたびに一回止めます。「そこ、最後でいいかもしれません」と。
先日、その根拠になるデータが出ました。
507件を並べたら、みんな「手前」から入っていた
2026年8月1日、株式会社パブリカが運営する「ものづくり新聞」が、製造業DX事例データベース4,506件のうち、企業規模が中小・中堅に分類される507件(中小380件・中堅127件)を抜き出して、業種・地域・DX領域・導入テーマの傾向を整理したレポートを公開しました。
主要テーマとして挙がっていたのは、この5つです。
- 見える化・BI
- IoTセンサー
- 生産管理・工程管理
- AI画像検査
- クラウドSaaS
そして全体の傾向として書かれていたのが、「大規模な全社システム刷新より、現場データの可視化、紙帳票・Excel業務の見直し、工程管理のデジタル化、検査・品質管理の自動化など、現場課題に直結した取り組みが多い」という一文でした。
507件です。1社や2社の成功事例ではなく、実際に動いた事例を500件超まとめて並べたときに見えた地形がこれ、ということです。
僕がこのレポートを面白いと思ったのは、「何をやったか」より「どこから始めたか」が読めるところでした。基幹システムの刷新は、DXの話題としては一番大きく扱われるのに、実際に動いている中小・中堅の現場ではスタート地点になっていない。
これは偶然じゃないと思っています。
順番を決めているのは、技術の難易度じゃない

「見える化から始めるのは、簡単だからでしょ」と言われることがあります。
半分は当たっていますが、大事なのは「何が簡単なのか」です。技術的に簡単だから先に来ているわけではありません。必要な合意の量が少ないから先に来ているんです。
見える化は、現状を変えずに始められます。今やっている作業のやり方を1ミリも変えずに、そこから出ている数字を拾ってきて、グラフにするだけ。誰の仕事も増えないし、誰の権限も削らない。だから、現場に「今日からこうしてください」と言わずに済む。
基幹システムの刷新は逆です。あれは業務の決め方そのものを変える作業です。誰がどのタイミングで何を入力して、誰が承認して、どの数字を正とするか。全部を決め直すことになる。だから、全部署の合意がいるし、切り替えの瞬間に会社が止まるリスクを背負う。
つまり、DXの着手順を実質的に決めているのは、エンジニアリングの難易度ではなく、社内でどれだけの人にYesと言ってもらう必要があるかです。
これは技術の話じゃなくて、組織の話です。だから外部のベンダーが「技術的にはこちらが先です」と説明しても噛み合わない。507件が示しているのは、現場の人たちが経験的にこの順番にたどり着いている、ということだと思っています。
ただし、見える化は「その先」で止まる
ここまで読むと「じゃあ見える化から始めればいいのか」で終わりそうですが、話はもう一段あります。
見える化だけやって止まっている会社が、めちゃくちゃ多い。
これは僕らが実際に現場に入って一番よく見る光景です。立派なダッシュボードがあって、稼働率も不良率もリードタイムも、リアルタイムで出ている。数字は完璧に見えている。
それで、聞くんです。「この数字を見て、誰が、何を決めているんですか」
だいたい、答えが返ってこない。
数字が見えることと、判断が変わることは、別のことです。見えるようにしただけでは、意思決定は1ミリも変わらない。むしろ「見えているのに何も変わらない」状態は、現場の温度をゆっくり下げます。「あれ、結局意味なかったね」と言われて、次の投資が通らなくなる。
なので僕らが見える化のプロジェクトに入るときは、ダッシュボードの設計より先に、この一行を決めてもらいます。
この数字が◯◯を下回ったら、△△さんが□□を決める。
主語と、閾値と、決める内容。この3つが埋まらない指標は、作りません。埋まらないということは、その数字は「見たい」だけで「使う」予定がないということなので。
見える化から始めるのは正しい。でも、見える化で終わると、投資は回収されません。
僕らが中堅・中小の案件で、最初に聞く3つ
K.Platinumは17人の会社です。製造・流通・金融あたりを主戦場に、ITコンサルと受託開発をやっています。大手SIerのように数十人の体制を組めるわけではないので、入る場所を間違えると普通に沈みます。
だから初回の打ち合わせで、必ずこの3つを聞きます。
① いま、紙とExcelで回っている工程はどれですか
これは「遅れている工程を探す」ための質問じゃありません。まだシステムの制約に縛られていない工程を探す質問です。紙とExcelで回っているということは、そこの業務ルールはまだ柔らかい。触っても他システムに波及しない。一番安く、一番早く効果が出る場所は、たいていここにあります。
② その数字を見て、誰が何を決めていますか
さっきの話です。答えが出ないなら、その工程はまだ見える化のタイミングじゃない。先に「決め方」を整理するフェーズです。
③ 決め方を、変える気はありますか
これが一番大事で、一番聞きにくい質問です。
「変える気はない、今のやり方のまま楽にしたい」という答えも、まったく問題ありません。その場合は、見える化と省力化で止めるのが正解です。そこで無理に基幹刷新やAIの話に持っていくと、必ず途中で止まって、お互い不幸になる。
僕らは「作らない提案」も普通にします。17人しかいないので、途中で止まる案件を抱える余裕がないんです。この必然が、結果的に誠実な提案につながっているのは、ちょっと皮肉だなと思っています。
——ちなみに、この「どこから手をつけるか」を一緒に見極めるメンバーを、いま探しています。上流から実装まで越境したい方は、採用ページものぞいてみてください。
どこから手をつけるか、を5つで並べる

レポートに出てきた5テーマを、僕らの体感で「始めやすさ」と「効きやすさ」で並べると、こうなります。
見える化・BI — 始めやすさは最高。現状を変えずに入れられる。ただし前述のとおり「誰が何を決めるか」とセットにしないと、効きやすさはゼロになる。
クラウドSaaS — 始めやすい。作らずに済むのが最大の利点。ただし業務固有の例外を吸収できないので、「例外が全体の何割か」を先に数えておく必要がある。3割を超えるなら、たぶん入りません。
生産管理・工程管理のデジタル化 — 中くらい。効き方は大きいが、業務ルールに触るので合意が要る。紙とExcelで回っている範囲に限定して始めると、ぐっと軽くなる。
IoTセンサー — 始めやすさは意外と高い(既存業務を変えない)が、データを取ったあとの置き場所と使い道を決めていないと、ただの「センサーがついた工場」になる。ここでコケる会社が多い。
AI画像検査 — 効きやすさは非常に高いが、前提条件が重い。学習に使える画像が、不良品も含めてある程度の量たまっていること。ゼロから撮り始める場合は、そこが1年仕事になることを最初に伝えます。
順番の原則はシンプルで、「業務ルールに触らないもの」から「触るもの」へ。技術のかっこよさではなく、必要な合意の量が少ない順です。
落とし穴3つ
① 事例の真似は、業種と規模が揃っていないと効かない
507件のデータベースがあるのは素晴らしいことですが、事例集の使い方には注意が必要です。同じ「見える化」でも、多品種少量の板金加工と、少品種大量の食品工場では、見るべき数字がまったく違います。事例は「何をやったか」ではなく「どういう制約の会社が、どういう順番で動いたか」を読むものだと思っています。
② データ整備が、本体より大きくなることがある
これは本当によくあります。「AIで不良を検知したい」に対して、まず必要なのが「不良品の定義を全工場で統一する」だった、みたいなケース。この整備コストを見積もりに入れずに走ると、途中で予算が尽きます。僕らは初回に必ず「AIの手前に何ヶ月あるか」を出します。だいたい、そっちの方が長い。
③ 補助金の締切に合わせて領域を選ぶと、続かないものが残る
補助金を使うこと自体はまったく問題ありません。ただ、「締切があるから、今回はこの領域で申請しよう」と順番を逆にすると、会社の課題ではなく、補助金の要件に合った何かが導入されます。それは翌年、誰も使っていません。順番は自社の制約で決めて、そこに合う制度を探す。逆はやらない方がいい。
まとめ
507件を並べて見えたことを、一行にするとこうです。
DXの着手順は、技術の難易度ではなく、必要な合意の量で決まっている。
だから現場は自然と「業務を変えずに始められるもの」から手をつけていて、それは間違っていない。ただし、見える化で止まると投資は回収されないので、始める時点で「見た結果、誰が何を決めるか」を一行で書いておく。書けないなら、その指標はまだ作らなくていい。
僕らみたいな17人の会社が中堅・中小の製造業に呼ばれるのは、たぶん、大手SIerに頼むほどの規模じゃないけど、SaaSを入れて終わりにもできない、という真ん中の領域だからです。この領域は、どこから始めるかの相談相手がいちばん不足していると感じています。
そして、この「順番を決める仕事」はAIに置き換わりません。何を作るかより、何を作らないかを決める仕事なので。
うちには、要件定義から実装まで一人で通す前提のメンバーが揃っています。工程を細切れに分業していないので、「この会社は、決め方を変える気があるのか」みたいな判断を、コードを書く人間が自分の目で確かめられる。そういう働き方に興味がある方は、ぜひ一度話しましょう。
沼田海斗 / 株式会社K.Platinum 代表取締役
高専卒。スタートアップITコンサルを経て、24歳で起業。現在3期目。製造・流通・金融領域のITコンサルティングと受託開発、プログラミングスクール「ジゴカツ」を運営。社員17名、うち高専出身者8名。
K.Platinumでは、一緒に働く仲間を募集しています。
上流から実装まで越境して手を動かしたい方、中堅・中小企業の現場に入って「順番を決める」仕事がしたい方は、ぜひ採用ページをご覧ください。カジュアル面談も歓迎です。

