こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
2026年8月5日に、高専機構(独立行政法人国立高等専門学校機構)と日本政策金融公庫が、連携を開始したというリリースを出しました。
タイトルは「高専機構と日本公庫が連携し高専によるスタートアップ創出を加速」。この手の連携リリースは年に何十本と出るので、見出しだけならスルーしていたと思います。
でも読んでいる途中で手が止まりました。止まったのは連携の中身ではなく、その手前に書いてあった前史のほうです。
僕は高専の出身です。卒業したのは2018年。そのときには、無かったものが書いてありました。
この記事で書くのは3つです。①何が決まったのか(事実)②原典で僕の手が止まった2行 ③20歳の出口が1本増えたことを、採用する側はどう受け止めるべきか。
※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。
発表されたのは、51校ぶんの「相談窓口」だった
事実を先に並べます。
- 連携開始日:令和8年8月5日
- 高専機構(理事長:中島英治)と日本政策金融公庫(代表取締役総裁:藤井健志)
- 対象は、全国51校の国立高専に在籍する学生および教職員
- 目的は、学生・教職員によるスタートアップ創出を「体系的かつ継続的に」支援すること。事業計画の検討段階から創出に至るまでを、両者が伴走型で支援する
連携の内容は4つ挙げられていました。
- 高専機構をハブとした、各高専から日本公庫への相談体制の整備
- スタートアップ支援人材の育成に向けた勉強会等の開催
- 各高専への出張授業を通じた、ビジネスアイデアのブラッシュアップ支援
- 日本公庫が連携する金融機関・行政機関などとのマッチングに向けた交流促進
ちなみに日本公庫は、平成25年度から「高校生ビジネスプラン・グランプリ」を開催していて、高専生は1〜3年生が対象です。接点が無かったところに橋がかかったというより、既にあった細い線を太くした、という感じに近い。
なぜ「相談体制」からなのか、という理由も原典にあります。日本公庫の説明は、創業前や創業後まもない人は「営業実績が乏しいなどの理由により資金調達が困難な場合が少なくありません」。20歳で実績が無いのは当たり前で、その当たり前に対して先に窓口を用意した、という順番です。
なお、この連携はあくまで「相談できる体制ができた」という話であって、融資が受けられるとか審査が通りやすくなるという話ではありません。
令和4年度に、全国の国立高専へ「起業家工房」ができていた
リリース後半の「高専機構の取組について」に、こう書いてありました。
令和4年度の文部科学省「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」において、全国の国立高専に起業家工房を設置し、これらを活用したアントレプレナーシップ教育に取り組んできました。
さらに、
本年6月には高専機構本部に「アントレプレナーシップ教育・スタートアップ支援推進本部」を設置
起業家工房。名前がいいですよね。
令和4年度=2022年度です。僕が卒業したのは2018年3月なので、在学中には影も形もありませんでした。全国の国立高専に、僕が出ていったあとでそういう場所ができていた。
この事業、文部科学省の選定結果まで遡ると、令和5年1〜2月の公募に高専から56件の申請があり、その56件すべてが採択されています。対象は国立・公立・私立の高専で、うち国立51校には高専機構のリリースどおり全校に工房が置かれた。手を挙げたところは全部通っている、という温度で始まった事業でした。
しかも今年6月には、機構の本部側にも推進本部ができている。スタートアップ支援にはディレクター1名、サブディレクター2名。各校に場所を作って終わりではなく、束ねる人を本部に置いた、ということです。
高専のアルムナイ組織である「高専人会」とも協力する、とありました。この団体は令和4年に設立されたもので、代表理事は渋谷修太さん。ここも僕が卒業したあとにできた組織です。
そして原典は今後について、「全国の高専で共通して活用可能な支援体制を構築し、継続的かつ一貫したサポートの提供を目指します」と書いています。各校が個別に作ってきたものを揃えにいくフェーズ、ということです。
在学中の自分に教えてあげたいかというと、微妙なところですが。当時の僕は起業する気が1ミリも無く、卒業間際にママチャリで日本一周していたので、工房があっても入らなかったと思います。
支援の対象に、「教職員」が入っている

読み直していて、いちばん引っかかったのはここです。支援の対象が、学生および教職員なんです。
起業支援は学生の話だと反射で思っていました。若い人が新しいことをやり、大人が支える、という絵。でも原典ははっきり教職員を含めている。連携内容の2番目も「スタートアップ支援人材の育成に向けた勉強会」=明らかに教える側に向けたものです。
これはけっこう大きい話です。学校という組織が、教える側も外に出ていいと公式に言ったということだから。しかも「出ていってもいい」ではなく「出ていくための勉強会をやる」まで踏み込んでいる。
うちみたいな小さい会社にも、似た構造の悩みはあります。人に教える立場になった社員が、教えることに専念しすぎて作る側から離れていく。教える人が現場を持たなくなると、教える中身が古くなる。規模に関係なく起きます。
高専でそれが起きていたのかは外にいる僕にはわかりません。ただ、対象に教職員を入れた事実からは「教える人が動けるようにする」という設計意図が読み取れます。
20歳の出口が、3つから4つになる
高専の制度も、原典にこう書かれています。中学の卒業生を受け入れ、5年一貫の技術者教育を行う。実験・実習を重視した専門教育を早い段階からやるので、20歳の卒業時には高度な知識・技術を身につけている。
20歳で技術を持っている人が、毎年、全国51校から出てくる。
その人たちの出口は、これまでだいたい3つでした。就職、専攻科、大学編入。そこに「起業」という4本目が、制度として整備されつつある。

採用する側の立場で正直に言うと、これは競合が増えたということです。
誤解のないように書いておくと、僕は起業を勧める側ではありません。就職を選ぶ高専生が、起業を選ぶ人より慎重だという話でも一切ない。うちにも高専出身の社員が何人もいて、全員、就職という選択をしてうちに来ています。そのことに引け目を感じてほしくない。
僕が言いたいのは単純な話で、選択肢が増えた相手に、去年と同じ提示物ではまずいということです。
「うちは成長できます」「若手に裁量があります」——この手の言葉は、たぶんもう効きません。工房で自分の手を動かした学生からすれば、裁量なんて起業したほうが100倍あるわけで。
だから、こちらが言えることは具体しかない。どの業界の、どんな業務の、何を作っているのか。入って半年で触るコードはどこか。誰と組んで、誰にレビューされるのか。うちで手を動かすと何が身につくのか。
言えなければ選ばれない。それだけの話です。
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その具体は採用ページにまとめています。高専生・高専卒の方のカジュアル面談も歓迎です。
企業が学校に入り、学校が出口を増やす ── 3方向から同じことが起きている
この1〜2ヶ月、似た形のニュースを続けて読みました。
- 企業が高専のネーミングライツを取得し、学校の側に入っていく動き
- 大企業が自社の訓練設備を他社の人材育成に開く動き(8月のJEEDの協定)
- そして今回の、学校が学生と教職員の出口を増やす動き
企業が学校に入る/業界が設備を開く/学校が出口を増やす。方向は全部ちがうのに、起きていることは同じに見えます。「人を育てて自分のところに囲う」という前提が、あちこちで同時に外れかけている。
囲えないなら、どうするか。答えはたぶん、囲うのをやめて、選ばれ続けるほうに設計を寄せるしかない。入って3年で他に行かれるのが嫌だから育てない、という判断は、短期的には合理的に見えて、長期的には自分の首を絞めます。
僕が卒業した頃には無かったものが、母校を含む全国の高専にできている。それ自体は単純にいい話だと思っています。羨ましいとも思う。
その上で、うちが用意すべきなのは工房と張り合える何かではなく、工房を知っている人が来たときに面白がれる仕事のほうです。それは社員十数人の会社でも作れるはずだし、作れなかったらこちらの怠慢です。
まずは、今うちが何を作っているのかを、ちゃんと言葉にするところから始めます。
出典
独立行政法人国立高等専門学校機構・株式会社日本政策金融公庫『高専機構と日本公庫が連携し高専によるスタートアップ創出を加速』令和8年8月5日
https://www.kosen-k.go.jp/news/36002
文部科学省『「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」実施機関の決定について』(公募:令和5年1月10日〜2月7日/申請56件・採択56件)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kosen_koudoka/00003.htm
註記
本記事は上記2件に明記された事実にもとづいて書いています。個別の高専における工房の設置状況・運用はリリースから確認できないため言及していません。また本連携は相談体制・教育支援に関するもので、融資の可否や審査に関する記述ではありません。最終節の「3方向から同じことが起きている」以下は筆者の解釈です。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。製造・金融業界でのキャリアを経て、2023年にK.Platinumを設立。エンジニアが実力で正当に評価される会社をつくることを目指している。
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