こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
採用ブログのはずなのに、今日は支払いの話をします。すみません。でも最後まで読んでもらえれば、これが採用の話だということは伝わると思います。
先に結論だけ書いておきます。会社がどこに、どのくらいの速さでお金を払っているかは、その会社が人をどう扱うかとほぼ同じ形をしています。求人票には一行も載らないのに、一緒に働く人からはよく見えている。今日はそういう「書かれていない条件」の話です。
2026年9月2日に、公正取引委員会と中小企業庁が連名で、こういう要請を出しました。
約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について
タイトルだけ見ると、うちみたいな、十数人でITコンサルと受託開発をやっている会社には関係がなさそうです。手形なんて振り出したことも受け取ったこともないので。
でも読んでみたら、関係のある話でした。というより、手形を使ったことがない会社ほど、この先の1年で影響を受けるのはこっちなんじゃないかと思っています。
※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。
要請文に出てくる日付を並べると、終わりが3回ある

まず、原典に書いてある事実を並べます。以下は僕の解釈ではなく、要請文にそのまま書かれていることです。
① 令和8年(2026年)9月30日
電子交換所での手形・小切手の交換が廃止されることを踏まえ、多くの金融機関が、手形・小切手の最終振出期限をこの日に設定している。
② 令和9年(2027年)3月31日
電子交換所における手形・小切手の交換が廃止される。
③ 令和9年(2027年)4月1日
独占禁止法上の「支払告示」が施行される。取適法(中小受託取引適正化法)の対象とならない取引を含めて、製造委託等の代金を、給付を受領した日から起算して60日以内に支払わなければならなくなる。
日付を並べると、終わりが3回あるんですよね。
最初に振り出せなくなる日が来て、次に交換の仕組み自体が無くなる日が来て、その翌日から60日ルールが対象を広げて始まる。
この並びを見て、うまくできているなと思いました。手形という「支払いを先送りする道具」が物理的に使えなくなる日と、「先送りを制限するルール」が広がる日が、きっちり隣り合わせに置かれている。逃げ道を閉じてから、ルールを広げている。
なお、取適法のほうは既に走っています。令和8年1月1日以後の発注については、製造委託等代金の支払に手形を交付することが禁止されていて、しかも電子記録債権や一括決済方式のような現金以外の手段についても、受領から起算して60日以内に満額を受け取れないなら使えないと書かれています。手形をやめて電子記録債権にすればサイトは今のままでいい、という話ではないわけです。
宛先が2つに分かれている ── 業界団体と、金融機関の両方に出ている
この要請でいちばん面白かったのは、中身より宛先でした。
要請は2系統に分かれて出されています。
- 各産業の業界団体宛て
- 金融機関及びそれを監督する省庁宛て
業界団体宛てのほうは、まあ想像がつきます。サイトを60日以内に短縮してください、できる限り現金で払ってください、と。建設工事や大型機器の製造のように納品までが長い取引については、前払いの比率や期中払いの比率を高めてください、とも書いてある。
問題は2つ目です。金融機関宛てには、こう書かれていました。
サイトの短縮に取り組む事業者からの資金繰り支援の相談に丁寧かつ親身に応じる
これ、認めているんですよね。支払いを速くすると、速くした側の資金繰りが苦しくなるということを。
出ていくお金が早くなって、入ってくるお金がそのままなら、その差はどこかから埋めるしかない。要請を出す側は当然それを分かっていて、だから同じ日に、金融機関にも「相談に乗ってやってくれ」と言っている。片方だけに要請を出していたら、これはただの精神論でした。
そしてもう1つ、金融機関宛ての要請にはこう書いてありました。手形・小切手の最終振出期限が来るだけでなく、他の金融機関を支払地とする手形・小切手の預金入金扱いが停止されるなど、事業者に提供するサービスに重要な変更が生じることが想定される、と。
つまり、変わるのは振り出す側だけじゃない。受け取った側の入金の扱いも変わる。9月30日は「もう出せません」の日であると同時に、「受け取ったあとの扱いが変わりますよ」の日でもある。
要請文には「混乱が生じないように」「丁寧かつ確実な説明・周知を」と書かれています。逆に言えば、混乱が起きうると思われているということです。
受託開発の会社は、入ってくるお金と出ていくお金の間に立っている
ここからは僕の読み方です。
受託開発の会社は、真ん中にいます。お客さんから受け取って、協力会社に払う。 入ってくるお金と出ていくお金の間に、時間の差がある。この差が資金繰りそのものです。
小さい会社が資金繰りを楽にする方法は、身も蓋もなく言えば2つしかありません。入りを早くするか、出を遅くするか。
出を遅くするのは、簡単です。相手が待ってくれるなら、それで一時的に楽になる。でもそれは、自分の資金繰りを協力会社に肩代わりさせているということでもあります。
今回のルールの束が言っているのは、要するに「その肩代わりを、もうやめましょう」という一点だと思っています。
誤解のないように書いておくと、僕は手形を使っている会社を批判する気は全くありません。手形には手形の合理性があって、それで回ってきた産業がある。長年その前提で設計されてきた商流を、期限が来たから明日から変えろというのは、外から言うほど簡単じゃないはずです。
それに、個別の取引が取適法や支払告示に当てはまるかどうかは、僕には判断できません。うちは法律事務所でも行政書士事務所でもないので。自社の取引で気になる点があれば、公正取引委員会・中小企業庁や専門家に確認してください。ここに書いているのは、いち事業者としてこの文書をどう読んだか、という話です。
支払サイトは、協力会社から見た「待遇欄」だ

ようやく本題です。
うちは、社員だけで仕事をしているわけではありません。案件によっては協力会社さんやフリーランスの方と組みます。そしてその人たちは、単価だけで仕事を選んでいません。
「あの会社は入金が早い」「あそこは締めから支払いまでが長い」──こういう情報は、業界の中でわりとちゃんと流通します。求人票にも会社紹介にも一切書かれていないのに、みんな知っている。
これって、社員の待遇と同じ構造だと思うんですよね。
給与の額面は募集要項に書きます。でも「残業がどのくらいあるか」「有休が実際に取れるか」「入社してすぐ何を任されるか」は、書いていなくても伝わっていく。書いていない条件のほうが、選ぶときの決め手になっている。
支払サイトは、社外向けのそれです。協力会社にとっての待遇欄。 そして今回のルール変更は、その待遇欄を全社が一斉に書き換えなければならない、という話になっている。
一斉に書き換わるということは、そこで差がつかなくなるということでもあります。60日が横並びになれば、60日であることは強みではなくなる。じゃあ次に何で選ばれるのか、という問いが残る。
たぶん、答えはまた具体なんです。いつ締めて、いつ振り込むのか。検収でもめたときにどう決めるのか。追加の作業が出たとき、誰がどのタイミングで判断するのか。 こういうことを事前に言葉にできている会社は、たぶん最後まで選ばれる。ルールが変わっても変わらない部分がそこだと思っています。
こういう「求人票に書いていない条件」は、面談でいちばんよく聞かれるところでもあります。K.Platinumはカジュアル面談も受け付けているので、気になることがあれば直接聞いてください → エンジニア募集中!詳しい条件を見る
期限のある話は、期限のあるうちに読む
省庁の発表を毎朝読んでいると、期限が書いてある文書と、書いていない文書があることに気づきます。書いてあるほうは、たいてい実務が動く。
9月30日は、もうすぐです。この記事を書いている時点で、1ヶ月を切っています。
うちは手形を扱っていないので、この日に何かが起きるわけではありません。それでも読んだのは、「自分に関係のない期限」だと思って読み飛ばした文書が、半年後に自分の取引条件を変えていることがあるからです。今回のものは、まさにその形をしていました。9月30日は他人事で、令和9年4月1日は他人事ではない。
自社の支払条件がどうなっているか、そして協力会社から見てそれがどう見えているか。数えれば分かることなので、期限が来る前に一度見ておこうと思います。
出典
公正取引委員会・中小企業庁『(令和8年9月2日)約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について』令和8年9月2日
https://www.jftc.go.jp/yakusokutegata_yousei.html
註記
本文中の「終わりが3回ある」という日付の並べ方、および宛先の分け方に関する読み解きは筆者の解釈であり、公正取引委員会・中小企業庁が示したものではありません。個別の取引が取適法(中小受託取引適正化法)または支払告示に該当するかどうかの判断は本記事の範囲外です。制度の詳細および個別の相談については、公正取引委員会事務総局経済取引局取引部企業取引課(03-3581-3373)または中小企業庁、各専門家にご確認ください。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。製造・金融業界でのキャリアを経て、2023年にK.Platinumを設立。エンジニアが正当に評価される仕組みづくりに取り組んでいる。
K.Platinumでは一緒に働くエンジニアを募集しています。「実力で正当に評価される環境」に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。

