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2026年10月6日

内定取消しが34人から80人になった年に、増えていたのは「取り消す会社の数」ではなかった ── 内定を出す側が考えたこと

アニメ風のビジネスマンがオフィスで書類を確認している様子が描かれており、背景には従業員数が34人から80人へと増加していることが示された成長グラフが映し出されている。.

こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。

毎朝、省庁の報道発表を眺めるのが習慣になっています。ほとんどは自分に関係のない資料なんですが、たまに手が止まるやつがある。

2026年8月28日に厚生労働省が出した、この発表がそうでした。

令和8年3月新卒者採用内定取消し等の状況を公表します 〜29事業所で80人が採用内定取消し〜

見出しだけ読むと、まあそういう年もあるよね、で終わる話です。実際ニュースでも大きくは扱われていません。

でも中を開いて、去年の数字と並べて、電卓を1回叩いたら、見出しとはちょっと違う絵が出てきた。今日はその話をします。

書くのは3つ。①発表の数字はどこまでのものか ②割ると何が見えるか ③内定を出す側として、うちが何を決めているか。

※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。


厚労省が発表していたのは、たった2行の数字だけ

まず、原典に書いてあることをそのまま置きます。厚労省のページに載っているのは本当にこれだけです。

採用内定取消し
- 令和8年3月新卒者:29事業所・80人
- [参考]令和7年3月新卒者:21事業所・34人

入職時期繰下げ(延期)
- 令和8年3月新卒者:2事業所・2人
- [参考]令和7年3月新卒者:2事業所・93人

そして、ここが一番大事な但し書き。この集計の範囲は「令和8年7月末までに、職業安定法施行規則第35条第2項第2号及び第3号に定める様式により通知された事項」と明記されています。

要するに、会社がハローワークに届け出た分だけの数字です。届け出ていない取消しは、この80人には入っていません。基準日も7月末であって、発表日の8月28日ではない。

つまり80人は、実態の上限ではなく下限として読むべき数字です。ここを飛ばして「日本全国で80人が内定を取り消された」と書くと、もう原典の言っていることではなくなります。

余談ですが、この発表の照会先は職業安定局ではなく「人材開発統括官付 若年者・キャリア形成支援担当参事官室」。新卒の入口の話は、役所の中でも「雇用」ではなく「人材開発」の棚にあるらしい。


割ってみたら、1社あたり1.6人が2.8人になっていた

1社あたりの人数が増えた

ここからは僕の読み方です。厚労省が書いていることではありません。発表された数字を僕が勝手に割っただけなので、そこは混ぜないように書きます。事業所数と人数の両方が出ているので、割り算ができます。

  • 令和7年3月:34人 ÷ 21事業所 ≒ 1社あたり1.6人
  • 令和8年3月:80人 ÷ 29事業所 ≒ 1社あたり2.8人

事業所の数は21→29で、1.38倍。
取り消された人数は34→80で、2.35倍。

伸び方が全然違うんですよね。

ニュースの見出しは「2倍以上に増加」で止まっていました。それは人数の話です。でも会社の数はそこまで増えていない。増えたのは「内定を取り消す会社」ではなく、「1社が取り消す人数」のほうだった。

1.6人と2.8人。数としては小さいですが、意味は違います。1.6人は「1人か2人、事情があって取り消した」という絵。2.8人になると、「採用計画そのものを引っ込めた」という絵に近づく。

ちなみに、平均を押し上げている場所も発表を見れば分かります。産業別で人数が最多なのは宿泊・飲食サービス業の4事業所・27人で、ここだけ1社あたり6人超。一方、企業規模別は99人以下が10事業所・30人、300人以上が14事業所・45人。1社あたりはどちらも3人前後で、「体力のない小さい会社が取り消している」という絵ではありませんでした。

個別の会社の事情は当然わかりません。事業所名は非公表ですし、推測で名指しするようなことは絶対にしない。ただ、平均の動き方としては「単発の事故」から「まとまった撤回」のほうへ寄っている、という読みはできると思っています。


93人が2人に ── 消えたのは「入社を遅らせる」という中間の選択肢

もう一つ、並べて初めて意味が出てくる数字があります。入職時期の繰下げです。

  • 令和7年3月:2事業所・93人
  • 令和8年3月:2事業所・2人

93人が2人になっている。事業所の数は同じ2なので、これも「1社あたり」が激減しているということです。

入職時期の繰下げは、会社側から見るとしんどいけど誠実な選択です。「今すぐは受け入れられない、でも入社してもらう約束は守る」状態を、自社の体力で持ちこたえる。内定者からすれば理不尽な待機ですが、少なくとも約束は生きている。

その中間の選択肢が、ほぼ使われなくなった。

内定を取り消す会社が増えたという話より、僕はこっちが気になりました。判断が二値化しているということだからです。持ちこたえるか、切るか。「遅らせて持つ」という真ん中が消えている。

もちろん、去年その93人を出した1社が今年は出さなかっただけ、という可能性も十分あります。母数が小さいので、この数字ひとつで傾向だと断定はできません。ただ、経営をしている側の実感として、この「真ん中が消える」感じには覚えがあります。

余力があるうちは中間を選べる。余力が無くなると、選択肢は端の2つしか残らない。


内定を出す側がやっている、地味な3つのこと

内定は、約束

ここからが本題です。うちは社員十数名の会社で、僕は毎年、内定を出す側にいます。

もう1つ、原典の数字を。取消し理由別では経営の悪化が9事業所・34人で、倒産は1事業所・1人だけ。多くは「潰れたから」ではなく「採用計画を維持できなくなったから」起きています。だとすれば、防ぎにいく場所は倒産対策ではなく採用計画のほうです。

内定取消しの記事って、たいてい「取り消されたらどうするか」という受け手側の話になります。労働問題としてはそれが正しい。でも僕が読む立場は逆で、どうすれば取り消さずに済むかのほうです。

なお、内定取消しの法的な有効性は僕が判断できる話ではないので、そこは専門家の領域として置いておきます。ここで書くのは、そもそもそこに至らないための設計の話です。

うちがやっていることは、地味な3つだけです。

1. 採用人数を「売上見込み」ではなく「確定した稼働」で決める

これが一番効きます。うちのようなITコンサルは、見込みの案件が動くかで来期の絵が変わる。見込みベースで人数を決めると、案件が1本ずれただけで人が余る。だから内定の数は、契約が確定して稼働が読める分にしか出さない。採用人数は毎年おとなしくなりますが、出した内定を引っ込めるよりはるかにマシです。

2. 内定から入社までの数ヶ月を、放置しない

内定から入社まで、長ければ1年以上あります。この間に会社の状況が変わることは普通にある。だから変わったら、変わった時点で伝える。良い変化も悪い変化も。何も言わずに直前でひっくり返すのが、いちばんやってはいけないことです。

3. 条件を紙にする

口頭で握った条件は、双方の記憶が都合よくずれます。配属、業務内容、勤務地、入社日。書いておけば、少なくとも「話が違う」は起きない。当たり前ですが、小さい会社ほど省略しがちです。

3つとも特別なことではありません。ただ、全部「内定を出す前」にやる仕事です。内定を出したあとに頑張っても、もう取り返せない。

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こういう決め方をする会社が気になった方は、採用ページへ。カジュアル面談からで構いません。


「取り消しません」より強いのは、去年の数字を答えられることだと思う

採用の面談で、候補者から会社の安定性を聞かれることがあります。2023年に立ち上げて3年あまりのうちみたいな会社なら、なおさら当然の質問です。

そこで「うちは絶対に内定を取り消しません」と答えるのは簡単です。でも、正直あまり意味がない。言うだけならどの会社でも言えるからです。

言えるとしたら、事実のほうだと思っています。去年何人に内定を出して、何人が入社したか。繰下げや取消しがあったのか、無かったのか。数えていれば答えられるし、数えていなければ答えられない。

厚労省の発表を読んで最後に思ったのはそこでした。29事業所と80人という数字は、誰かがハローワークに届け出た結果として存在している。届け出た会社があるから、この統計がある。

自分の会社の数字を、聞かれる前に数えておく。国が集計しているのと同じことを、十数人ぶんやるだけなら、たぶん30分もかかりません。

やっておこうと思います。


出典
厚生労働省『令和8年3月新卒者採用内定取消し等の状況を公表します 〜29事業所で80人が採用内定取消し〜』令和8年8月28日
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000184815_00066.html
(産業別・規模別・理由別の内訳は同発表の資料本体による)

註記
本文中の「1社あたり1.6人 → 2.8人」「事業所数1.38倍・人数2.35倍」および産業別・規模別の1社あたり人数は、発表された数字を筆者が割って求めたもので、厚生労働省が公表している数値ではありません。また本統計は令和8年7月末までにハローワークへ通知された事項の集計であり、通知されていない事案は含まれていません。内定取消しの法的な有効性は個別の判断が必要であり、本記事はその判断を行うものではありません。


沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。製造・金融業界でのキャリアを経て、2023年に同社を設立。エンジニアが正当に評価される会社をつくることをテーマにしている。


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