こんにちは。ITコンサルティングと受託開発、それにプログラミングスクールをやっている会社の代表、沼田です。17人・フルリモートの小さな会社をやっています。
最近、社内でも社外でも、こういう声をよく聞きます。「AI入れてから、開発が爆速になりました」。僕もつい「いいね」と返しそうになる。でも、あるときから僕は、この言葉に一拍おいて聞き返すようになりました。「その"爆速"、測ってみました?」と。
今日は、AIの効果を"体感"でなく"数字"で測るという、地味だけど中小にとってかなり大事な話を書きます。結論から言うと、AIで速くなった「気がする」だけで止めると、けっこう危ない。
「爆速になった」の、その実感を疑ってみる
まず、僕自身が背筋の伸びた調査を紹介します。経験豊富な開発者16名を対象にした研究で、こんな結果が出ました。AIコーディング支援を使ったグループは、出力の確認、指示の出し直し、返答待ちまで全部含めると、使わなかったときより約19%多く時間を使っていた。ところが本人たちは、「平均で20%くらい速くなった」と感じていた。
つまり、実測では遅くなっているのに、体感では速くなっている。この落差、けっこう衝撃じゃないですか。ある報道では、AIコーディングツールが経験豊富なエンジニアの生産性を約19%下げていた、とまで書かれていました。
なぜこんなことが起きるのか。使ってみると、心当たりがありすぎるんですよ。AIがコードを出してくれると、「自分で書かなくて済んだ」感覚が強く残る。だから速くなった気がする。でも実際には、出てきたコードを読んで、意図とズレていないか確認して、直して、また指示して……という往復に、思った以上の時間が溶けている。手を動かしていない時間は、体感から抜け落ちやすい。だから「速くなった気がする」だけが記憶に残るんです。
個人では遅く、会社全体では2倍速い——この矛盾

ここまで読むと「じゃあAIは開発を速くしないのか」と思うかもしれません。でも、話はそう単純じゃない。同じ2026年に、まったく逆の数字も出ているんです。
企業レベルで見ると、AI導入が最も進んだ会社——エンジニアの75〜100%が週3日以上AIツールを使っている会社——では、コードの取り込み(PRのマージ)が週2.2件。一方、導入が進んでいない会社は週1.12件。つまり、組織として見ると、AIをちゃんと使い込んでいる会社は約2倍のペースで開発が進んでいる。
個人の実感では遅くなっているのに、組織全体では倍速い。この矛盾を、僕はこう理解しています。AIの効果は、一人の作業時間を短くするところではなく、組織としての"流れ"を速くするところに出る。
たとえば、レビュー待ちの時間が減る。ドキュメントや調査が並行して進む。今まで一人しか触れなかった領域に、他のメンバーもAIの助けを借りて手を出せる。個々のタスクの秒数ではなく、「着手してから本番に出るまで」の全体の詰まりが取れていく。だから、一人ずつストップウォッチで測ると遅く見えても、会社の出荷ペースは上がる。測る場所を間違えると、同じAIが「遅い」にも「2倍速い」にも見えてしまうわけです。
なぜ、みんな"体感"で語ってしまうのか
じゃあ、なぜ多くの現場が「爆速になった」という体感で止まってしまうのか。理由はシンプルで、体感はタダで手に入るけれど、実測にはひと手間かかるからです。
「なんか速くなった気がする」は、誰でも今すぐ言える。でも「本当に速くなったのか」を確かめるには、AIを入れる前と後で、同じ物差しを当てて比べないといけない。この物差しを持っている中小は、驚くほど少ない。だから、みんな体感で語り、体感で満足し、体感で予算を決めてしまう。
これ、けっこう怖いんですよ。もし実態としては遅くなっているのに「爆速だ」と思い込んでいたら、間違った方向にどんどん投資してしまう。逆に、本当は組織の流れが速くなっているのに、一人の作業時間だけ見て「思ったほどでもない」と判断したら、効く投資をやめてしまう。どちらも、体感で握った結果の事故です。
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17人ITコンサルの、AIの測り方

うちがどう測っているか。特別なツールは使っていません。物差しをひとつ、決めただけです。
うちが見るのは、個人の作業時間ではなく、「着手してから本番に出るまでのリードタイム」です。ある機能なり案件なりを「やろう」と決めた瞬間から、実際にお客さんの環境で動き出すまで、何日かかったか。ここだけを、AI導入の前後で比べる。
なぜこれかというと、お客さんにとって価値があるのは「エンジニアが何分でコードを書いたか」ではなく「頼んだものが、いつ動くようになるか」だからです。途中でレビュー待ちが減ろうが、調査が並行しようが、最終的にリードタイムが縮まっていれば、それは本物の効果。逆に、一部の作業が速くなっても、全体のリードタイムが変わらないなら、それは「速くなった気がする」だけです。
もうひとつ、うちが徹底しているのは、AIの効果を"気分"で会議に持ち込まないこと。「なんか楽になった」ではなく、「この案件、去年の同規模案件と比べてリードタイムが◯日短くなった」と、数字で話す。うちは17人と小さいから、案件の履歴を全部、僕が把握できる。だからこそ、体感でなく実測で握れる。これは、規模が小さいことの数少ない特権だと思っています。
前職のスタートアップITコンサルにいた頃、「速くなった感」だけで新しいツールを次々入れて、結局どれが効いたのか誰も説明できない、という現場を何度も見ました。だから独立して自分の会社を持ったとき、「効果は必ず数字で確かめる」を最初のルールにしました。24歳で起業して、この3期目(27歳)まで、地味だけどこれを守り続けています。
AIの効果は、"気分"でなく"数字"で握る
まとめます。AIコーディングは、個人の作業を測ると逆に遅くなっている場合すらある(体感+20%・実測は約19%減)。でも組織で測ると、使い込んだ会社は約2倍のペースで開発が進む(週2.2件 vs 1.12件)。同じAIでも、どこを測るかで結論が正反対になる。
だから、「爆速になった」という体感で止めないでほしいんです。問うべきは、着手から本番までのリードタイムが、本当に縮まったのか。速くなった"気"がするだけなのか、実際に速くなったのか。
うちも、派手なことはやっていません。物差しをひとつ決めて、AIの前後で比べているだけ。でも、これをやるかやらないかで、投資の判断がまるで変わります。小さい会社ほど、一発の投資ミスが痛い。だからこそ、AIの効果は"気分"でなく"数字"で握る。今日から、自社のAIを一度、体感でなく実測で見てみてください。案外、思っていたのと違う景色が見えるはずです。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。24歳で起業し、ITコンサルティング・受託開発・プログラミングスクールを手がける。17人・フルリモートの組織で、「エンジニアが正当に評価される会社」を、体感でなく数字と仕組みでつくることにこだわっている。
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