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2026年8月28日

「AI研修」という名前だけでは、助成金が下りなくなった — 2026年8月3日に国が引いた線と、17人の会社の研修計画の直し方

オフィスで、ある男性が「研修計画」と「不支給」と書かれた書類を、心配そうな表情で確認している。彼の背後の看板には「その研修、助成金が下りない…」と書かれている。.

こんにちは、K.Platinum代表の沼田です。

2026年8月3日、厚生労働省の人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」の支給要領が改正されました。

この手の改正はたいてい「様式が変わりました」で終わるので、僕も最初は流し読みするつもりでした。でも中身を見て手が止まった。変わったのは手続きではなく、「これは訓練と呼ばない」という線の引き方だったからです。

うちは17人の受託開発・ITコンサルの会社で、社内の研修計画も自分たちで組んでいます。今回の改正は、その計画書の書き方そのものを直さないと通らない類のものでした。

社労士事務所ではないので、申請できる/できないの判断はしません。この記事では、国がどこに線を引いたのかと、それを受けてうちが研修計画のどこを書き直したのかだけを書きます。

何が変わったのか — ただし4月改正とセットで見ないと意味が分からない

2026年度の改正は二段構え

8月3日の改正点は、大きく2つです。

① 支給対象にならない訓練の範囲が広がった。
職務に間接的にしか必要でない知識・技能、そして職種にかかわらず労働者に共通して必要となる一般的な知識が、対象外として明確化されました。つまり「社会人として知っておくべき」の位置にある研修は、もう訓練として数えない。

② eラーニングによる訓練は、1人1年度あたり原則1回まで。
訓練全体は従来どおり1人1年度3回までですが、そのうちeラーニングで使えるのは1回だけになりました。

適用は、令和8年8月3日以降に提出する計画届から。8月2日以前に契約・申込が済んでいる訓練には経過措置があり、支給要領の「1402 経過措置」に定めがあります。経過措置を使う場合は、契約日が確認できる契約書・申込書・発注書などを計画届に添付する必要があります。

ここまでが8月3日の話。ただ、この改正はそれ単体で読むと半分しか見えません

同じ2026年度、4月8日にも改正が入っています。こちらはあまり話題になっていませんが、内容はかなり重い。

  • eラーニング・通信制の訓練について、1人1訓練あたりの経費助成の上限額が半減しました。中小企業で30万円 → 15万円、大企業で20万円 → 10万円。訓練の時間数にかかわらず、一律でこの上限が適用されます。
  • 定額制サービス(いわゆるサブスク型研修)による訓練は、支給対象労働者の要件が「標準学習時間1時間以上」から「10時間以上」へ引き上げられました。1時間で修了扱いにできていたものが、10時間ないと頭数に入らない。
  • 申請事業主と密接な関係にある者との訓練にかかる経費が対象外になりました。代表者等の配偶者や3親等以内の親族、親会社・子会社、自社の代表者や従業員が代表を務める教育訓練機関などが該当します。

並べると構図がはっきりします。

4月は「いくら出すか」を絞り、8月は「何を訓練と呼ぶか」を絞った。

金額の蛇口を細くしてから、通す中身を選別した。順番として、これ以上ないくらい理にかなっています。だから今回の改正を「eラーニングが年1回になった」だけで理解すると、たぶん次の計画届で足をすくわれます。

「AI研修」という名前が効かなくなった理由

改正のいちばん本質的なところは、訓練の名前で判断しなくなったことだと思っています。

これまでは、正直に言えば「DX研修」「AI活用研修」というタイトルが付いているだけで、それらしく見えました。国としてもDXやGXを推進したい以上、名前が合っていれば通りやすい空気があった。

今回はそこに、対象労働者の職務に直接必要であることと、訓練後の業務で具体的に活用できることという条件がはっきり書かれた。名前ではなく、受ける人の職務との距離で測るということです。

これを僕は締め付けだとは思っていません。国がリテラシー研修と職務訓練を分け始めた、という定義の話だと受け取っています。

生成AIの汎用的なプロンプトの書き方を全社員に教えるのは、いまや「社会人として共通して必要な一般的な知識」の側に寄っている。これは3年前とは明らかに違う。実際、産業能率大学 総合研究所の2026年度新入社員調査では、入社時点で何らかの場面で生成AIを使った経験がある新入社員が83.2%にのぼりました。もう共通教養になったものを、職業訓練として国が金を出す理由はない。 そう言われると、返す言葉があまりない。

一番効くのは、たぶん「eラーニング年1回」

インパクトの大きさで言えば、②のeラーニング年1回がいちばん現場を殴ってくると思います。

ここ数年、研修を安く広く配る方法として、定額制の学習サービスを全社員分契約して好きに受けてもらうやり方が定着しました。うちも検討したことがあります。安いうえ受講管理も楽で、「学べる環境があります」と求人票にも書ける。

でも4月改正で定額制サービスの対象労働者が「10時間以上受講した人」に絞られ、経費助成の上限も半減し、8月改正でeラーニングは年1回まで。サブスクを全社に配って助成金で回収する運用は、事実上たたまれたと見ていいと思います。

代わりに残るのは、誰に何を受けさせるかを個別に決めて、10時間以上きちんと受けさせるやり方です。手間は増える。でも冷静に考えると、これは研修の設計として正しい方向でもある。全員に同じものを配って受講率だけ見ていた運用は、そもそも成果が測れていなかったので。

17人の会社が、研修計画をどう書き直したか

研修計画の直し方

ここからは、うちが実際に直した3つです。制度の解説ではなく、書き方の話として読んでもらえたらと思います。

① 研修名から書き始めるのをやめた。

これまでは「AI活用研修」と先に書いて、そこに中身を足していました。今は逆で、「誰の、どの職務の、どの作業が、どう変わるのか」を1行で先に書く。書けなければ、その研修は企画しない。

たとえば「設計フェーズで、要件定義書のレビュー観点の洗い出しを、担当者が手作業でやっている。ここを変える」まで書けて初めて、必要な訓練が決まる。研修名は最後に付けます。順番を逆にしただけですが、企画が半分くらいに減りました。減った分は、たぶん元々やらなくてよかったものです。

② カリキュラムと「訓練後の業務」を1対1で対応させた。

カリキュラムの各コマの横に、そのコマを受けた人が翌月から実際にやる業務を書く欄を足しました。埋まらないコマがあれば、そのコマを外すか、業務の側を先に決める。

これは助成金のためというより、研修が終わったあとに何も変わらない現象への対策としてやりました。結果的に、今回の改正が求めている「訓練後の業務で具体的に活用できること」と、ほぼ同じ形になりました。

③ 計画届から逆算して、2か月前に決めることにした。

計画届は、訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出しなければならず、出していなければ、一切助成されません。出していない=ゼロです。

うちは「1か月前まで」を守ろうとして毎回ぎりぎりになっていたので、2か月前を社内の締切にしました。1か月のバッファは、上の①②を書き直す時間です。制度の締切ではなく、自分たちが考え直す時間として1か月確保する。

なお、8月2日以前に申し込んだ研修が手元にある会社は、経過措置に備えて契約書・申込書・発注書がすぐ出せる状態にあるかをまず確認しておくのがいいと思います。

教える側から見ると、これはかなり真っ当な話

うちはプログラミングスクール(ジゴカツ)も運営しているので、教える側としてもこの改正を読みました。

結論から言うと、受講後に何ができるようになるかを書けるカリキュラムだけが残る、というだけの話です。

「生成AIの基礎を学べます」で終わる教材は、今後たぶん通らない。逆に「受講後、自社の業務データでこの形式のレポートを自分で作れるようになる」まで書けるものは、名前がAIでもDXでもなくても通る可能性がある。書く側にとって後者はしんどい。できなかったときの言い訳ができなくなるからです。でも、書けない教材にお金を払ってもらうのは筋が悪い。国の要件が、教材の品質基準として機能し始めていると見ています。

まとめ — 最終年度と間口の縮小が同時に来た

事業展開等リスキリング支援コースは、中小企業なら経費助成75%、賃金助成960円/時、年間上限1億円という、助成金としてはかなり手厚い制度です。そして令和4年度から令和8年度までの期間限定の枠組みで、2026年度=令和8年度は、その最終年度にあたります。

念のため書いておくと、令和9年度以降がどうなるかは現時点で未定であり、廃止が決まったわけではありません。延長や後継の制度が出る可能性は普通にあります。断定するには早い。

ただ、確実なのは、最終年度に入ったタイミングで間口が2回絞られたという事実です。金額で1回、中身で1回。

こういうときに一番損をするのは、「制度が変わったらしい」で止まって、次の計画届を去年と同じ書式で出す会社だと思います。逆に得をするのは、そもそも研修を「誰のどの作業が変わるのか」から設計していた会社で、この人たちは書き方をほとんど変えなくていい。

制度に合わせて研修を作ると、制度が変わるたびに作り直しになります。研修を先に正しく作っておくと、制度が寄ってくる。 今回の改正から僕が受け取ったのは、だいたいそういう話でした。


※ 本記事は2026年8月14日時点の公開情報にもとづきます。助成金の適用可否・助成率・上限額はコースや企業規模によって異なり、個別の判断は管轄の都道府県労働局または社会保険労務士にご確認ください。

参考:
- 厚生労働省『人材開発支援助成金』支給要領(令和8年8月3日版)
- 厚生労働省『人材開発支援助成金(コース共通)改正 令和8年4月8日からの変更点について』(LL080408開企04)


沼田海斗(ぬまた・かいと) 株式会社K.Platinum代表。受託開発とITコンサルティングを軸に、自社の採用・人材育成にも携わっている。


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