こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
「AIを入れたのに、効果が出ているのは書類づくりだけ」。そんな声を、あなたの会社でも聞いていませんか。
僕は高専の出身で、ものづくりの現場には、昔から親しみがあります。最初に就職したのも、製造の世界でした。だから、製造業とAIの話は、どうしても気になってしまいます。
先日、キャディ株式会社が2026年9月10日に公開した、製造業の経営者484名への調査を読みました。AIがどこまで仕事に入り込んでいるかを聞いたもので、「専門業務」では14.3%、「現場工程」では2.9%という数字が出ていました。
今日は、この数字を手がかりに、「AIが現場に届くまでに、何が必要なのか」を、17人のITコンサルの目線で考えてみます。
※本記事は2026年10月時点の情報にもとづいています。調査は製造業の経営者484名を対象に、2026年8月に実施されたものです。調査主体は製造業向けのサービスを提供している会社で、その立場からの調査である点は、前提として読んでください。また、僕たちがこの分野で出した成果を示す記事ではありません。数字から考えたことを書いています。
経営者の57.8%が「効いている」と答えても、68.2%は「事務作業まで」
まず、調査の数字を整理します。
AIが経営に与えるインパクトを「実感している」と答えた経営者は、57.8%でした。半数を超えています。ところが、AIの効果が出ている業務は「事務作業まで」と答えた人が68.2%もいました。
このふたつを並べると、少しズレが見えます。多くの経営者が「効いている」と感じている一方で、その中身は、書類づくりや問い合わせ対応のような、事務の仕事にとどまっているようです。
事務作業は、AIが入りやすい場所です。文章があり、データがあり、正解の形が見えやすい。だから、最初に効果が出るのは自然なことだと思います。問題は、その先です。
専門業務は14.3%、現場工程は2.9% — 現場に近づくほどAIは減る

調査では、AIが入っている範囲を、業務の種類ごとに聞いています。そのなかで、設計や品質管理のような「専門業務」にAIを使っている割合は14.3%。そして、ものをつくる「現場工程」で使っている割合は、2.9%でした。
事務作業から専門業務、現場工程へと、階段を上るように、AIを使っている会社が減っていきます。現場に近づくほど、AIは入りにくい、ということです。
僕は、この数字を「AIが現場に向いていない」とは読みませんでした。むしろ、「現場に届かせるための準備が、まだ足りていない」という読み方のほうが、実態に近いのではないかと思います。
現場にAIが届かない理由は、性能よりも「データの整い方」にある
調査では、今後3年で強化したい取り組みも聞いています。上位に挙がっていたのは、次の3つです。
熟練技能や暗黙知のデータ化が62.4%。部門間のデータの分断を解消することが49.2%。人材の確保・育成が47.1%。
この3つを見て、僕は「そうだろうな」と感じました。現場の仕事は、ベテランの手の感覚や、「このくらいの音がしたら調整する」といった、言葉になっていない知恵に支えられています。それが書かれていなければ、AIは学ぶことができません。
また、設計、製造、品質といった部門ごとにデータが分かれていると、AIが全体をつないで考えることができません。人が足りないなかで、ベテランの知恵を引き継ぐのも、簡単ではありません。
つまり、現場にAIが届かない理由は、AIの性能というより、AIが読める形にデータが整っていないことにあるのではないか。僕は、そう考えています。
もうひとつ付け加えるなら、現場の人にとって、AIは「仕事を奪うもの」に見えてしまうことがあります。自分の知恵を書き出してほしいと頼まれて、気持ちよく応じられる人ばかりではないはずです。だから、書き出してもらうときは、「あなたの技術を残したい」「次の世代が困らないようにしたい」という目的を、丁寧に伝える必要があると思います。技術の話であると同時に、人と人との信頼の話でもあるのです。
事務作業の先へ進む3つの順番 — 書き出す、つなぐ、小さく試す

では、事務作業の先へ進むには、どんな順番で進めるのがよいのか。ここからは、17人のITコンサルとして、僕が大切だと考えていることを書きます。調査が示している答えではなく、あくまで僕の考え方です。
① 書き出す:現場の知恵をメモに残す
最初にやるのは、AIの導入ではなく、現場の知恵を書き出すことです。完璧な手順書をつくる必要はありません。「この作業で、いつも気をつけていることは何ですか」と聞いて、メモに残すだけでも、最初の一歩になります。
② つなぐ:部門ごとの情報を同じ場所に集める
書き出したものが、部門ごとにバラバラの場所に置かれていたら、AIはうまく使えません。設計の情報、製造の記録、品質の履歴を、同じ場所から探せるようにする。社内の資料をAIが参照できるようにする仕組みは、このときに役立ちます。
③ 小さく試す:ひとつの工程から始める
つないだら、いきなり現場全体に広げずに、ひとつの工程で小さく試します。うまくいかなければ、書き出しの段階に戻る。この行き来を、前提にしておくのが大切だと思います。
製造業のお客様と一緒に、現場の知恵をデータにする仕事に興味はありませんか? K.Platinumのエンジニア募集の詳しい条件はこちらの採用ページで見られます。
ITコンサルが「何を入れるか」より先に「順番」を問う理由
ITの世界にいると、新しいツールを見て「まず入れてみよう」となりがちです。僕も、そうしたくなる気持ちは分かります。
ただ、最初にツールを入れても、読ませる中身がなければ、結果は事務作業どまりになりやすい。調査の「事務作業まで」という68.2%は、その状態を表しているのではないか、と感じました。
だから僕たちは、お客様と話すとき、「何を入れるか」の前に、「何が書かれていて、何が書かれていないのか」を一緒に確認することを大切にしたいと考えています。派手さはありませんが、現場に届くまでの近道だと思うからです。
24歳で会社を始めてから、3期目の27歳になった今も、この考え方は変わっていません。むしろ、お客様の話を聞くほど、「順番」の大切さを感じます。
小さく試すときのコツも、ひとつだけ書いておきます。成功したかどうかを、「早くなった」「ミスが減った」のような、現場の人が実感できる言葉で振り返ることです。難しい指標を並べるより、現場の人が「これは使える」と思えるかどうかのほうが、次の一歩につながると僕は考えています。
この調査を読むときの注意点3つ
最後に、この調査の読み方で、僕が気をつけたい点を書いておきます。
一つ目は、調査主体が製造業向けのサービスを提供している会社だということです。調査の目的や設問の作り方に、その立場が影響している可能性はあります。
二つ目は、専門業務14.3%と現場工程2.9%は、「経営者が答えた」割合だということです。現場の担当者の実感とは、ずれている可能性もあります。
三つ目は、484名という数字は、製造業全体を表すものではないことです。業種や規模によって、状況は大きく違うはずです。
こうした点を踏まえて、数字は「今の傾向のヒント」として受け取り、自社の現場の話は、必ず現場の人から直接聞くのがよいと思います。
まとめ
製造業のAI浸透は、専門業務で14.3%、現場工程で2.9%でした。経営者の57.8%が「効いている」と感じる一方で、68.2%は「事務作業まで」と答えています。
事務作業の先に進むには、現場の知恵を書き出し、データをつなぎ、小さく試す、という順番が大切なのではないか。僕は、そう考えています。
もし「AIを入れたのに、事務作業から先に進まない」と感じている方がいたら、まずは、現場の誰が、どんな知恵を持っているのかを、聞いてみるところから始めてみてください。
K.Platinumが、どんな考え方でお客様と向き合っているかは、このブログでも少しずつ書いています。気になった方は、ほかの記事ものぞいてみてください。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。高専で学んだのち製造の世界でキャリアを始め、24歳でK.Platinumを創業。ITコンサルティングを軸に、お客様の現場に合った順番で課題に向き合うことを大切にしている。
K.Platinumでは一緒に働くエンジニアを募集しています。「実力で正当に評価される環境」に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。

