こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
うちは17人の会社で、「採用担当」という肩書きの人間はいません。面接に出るのは、僕か、そのとき手が空いているエンジニアです。
その体制のまま10月1日を迎えていいのか。少し前に、立ち止まって調べました。
きっかけは、来期の採用ページを見直していたときに、「選考でのハラスメント対策」という一文を見かけたことでした。うちのページには、そんな一文はありません。何が求められているのか、正直よく分かっていませんでした。
2026年10月1日、改正男女雇用機会均等法にもとづいて、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が、すべての事業主に義務化されます。関連する指針は令和8年2月26日に告示されています。
※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。個別の対応の要否については、必ず所轄の労働局または社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。
何が変わるのか
これまでのセクシュアルハラスメント防止措置は、「労働者」を守るための仕組みでした。
10月1日からは、その対象に「求職者等」が新たに加わります。会社が雇っている人だけでなく、これから採用しようとしている人、応募してきた人も、会社が防止措置を講じるべき対象になる、ということです。
会社に求められる整備は、大きく分けて次のようなものだと理解しています。
- 会社の方針を明確にし、周知すること
- 相談窓口を設置し、求職者に周知すること
- 事案が起きたときに、迅速かつ適切に対応すること
- 就業規則や懲戒規定に反映すること
- 採用担当者やリクルーターに研修を行うこと
規模による猶予はありません。17人の会社も、大企業も、同じ義務を負います。人事部があるかどうか、専任の採用担当がいるかどうかは、義務の有無に関係がないということです。
読んだ直後の感想は、「じゃあ、うちは何もやっていない」でした。方針も、窓口も、研修も、これまで一度も言葉にしたことがありませんでした。
変わったのは「誰が」ではなく「どこまで」

うちが最初に誤解しかけたのは、ここでした。「面接官が言葉に気をつければいい」という話だと思っていたんです。
読み進めると、対象は面接の場面に限定されていませんでした。就職活動中の学生、インターンシップの参加者、転職活動中の応募者、カジュアル面談の相手まで含まれます。
つまり、面接室の中だけの話ではありません。リクルーターの言動、OB訪問に対応した社員の言動、インターンを受け入れた現場の言動、選考後の個別のやり取りまで、会社の責任範囲に入ります。
そして気づいたのは、うちのような小さい会社ほど、この入り口が多いということでした。専任の採用担当がいないから、社長も、現場のエンジニアも、手が空いていれば面接官になります。担当を1人に絞れないぶん、会社として気をつけるべき人数が、実は大企業より多いのかもしれません。
しかも、面接室の中の会話には議事録が残りますが、懇親会やOB訪問やカジュアル面談の会話は、たいてい記録が残りません。非公式な場であるほど、後から確認する手段がない。制度が対象を広げた理由は、この「記録が残らない場所」にあるんだろうと、読みながら理解しました。
「悪意がないから大丈夫」が通用しない
もう1つ引っかかったのは、何が防止すべき事案にあたるかは、求職者側の受け止め方を基準に考えられる、という点です。
面接官に悪意がなくても、アイスブレイクのつもりで聞いた質問が、事故になり得ます。結婚の予定、交際の有無、容姿や体型、お酒の習慣。雑談のつもりで出やすい話題ほど、危ういゾーンに入りやすいと理解しました。
何を聞いていいか・悪いかを断定的にリスト化するのは、僕の役目ではないと思っています。境界線の判断は、専門家に確認していただくのが筋です。ただ、うちが実際にやったことは書けます。
これまでうちは、面接をかなり自由な形式でやってきました。堅苦しくしたくない、候補者の素の部分を見たい、という理由からです。でも「自由」と「無防備」は、たぶん別のものでした。自由な形式でやるほど、事前の共有と、後からの相談経路を、意識して作っておく必要があるんだと理解しました。
17人の会社が、9月中にやったこと3つ

① 面接で聞かない項目のリストを1枚作り、面接に入る全員に配った
結婚・交際・容姿・体型・飲酒。雑談のつもりで出やすい話題を、あらかじめ紙に書いて共有しました。面接官が「社長」「エンジニア」と流動的なうちのような会社ほど、この共有のコストは低くて済むはずです。
② 相談窓口を、採用ページと選考案内メールに明記した
社内の人間だけを窓口にすると、17人の会社では相談されにくいだろうと考えました。外部窓口の併記も、あわせて検討しています。
③ 面談を1対1にしない
記録が残りにくい場ほど、事故が起きやすいと理解しました。カジュアル面談やOB訪問のような非公式な場ほど、同席者を置くようにしています。
3つとも、費用はかかっていません。かかったのは、それぞれ1時間もない打ち合わせだけです。
正直に言うと、①はすぐできましたが、②の窓口は少し迷いました。17人しかいない会社で、「社内の誰かに相談してください」と書いても、実質は誰にも相談できないのと同じだろうと思ったからです。結局、社内の窓口に加えて、外部の相談先も候補者向けの案内に併記する方向で調整しています。
ちなみに、この「面接に出るのは僕か、手の空いているエンジニア」という体制そのものを、変えるべきタイミングなのかもしれないとも感じています。エンジニア募集中です。採用担当がいない分、面接に入ったエンジニアの声が、そのまま選考のやり方に反映される会社です。少しでも気になる方は募集要項を見る。
まとめ:10月1日は締切ではない
10月1日という日付を、最初は「間に合わせる締切」だと捉えていました。
でも書きながら、考えが変わりました。これは、うちが今まで何となくやっていた面接を、初めて言葉にする機会なんだと思います。
以前、採用選考でAIを使う企業が増えていて、その体験が悪かった候補者の約6割が志望度を下げていた、という調査を紹介する記事を書いたことがあります。あのときは「AIが選考体験を落とす」という話でしたが、今回向き合っているのは、人の言動が選考体験を落とすかもしれない、という同じ構造の話でした。
候補者から見て、安心して話せる会社かどうかは、選考体験そのものです。義務化への対応は、規制対応であると同時に、候補者体験の改善でもあるはずです。
うちは労務のサービスを売っている会社ではありません。だからこの記事も、正しい対応を教える記事ではなく、17人の会社が実際に何をしたかの記録として書きました。10月1日を迎える前に、同じように「うちは何もやっていないかもしれない」と気づいた方の参考になれば、と思います。
出典
厚生労働省「求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置の義務化」(施行日:令和8年10月1日/指針告示:令和8年2月26日)
山形労働局 雇用環境・均等室 掲載ページ https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/ha_gimuka-20260306.html
※制度の詳細は、各都道府県労働局および厚生労働省ホームページに掲載されている指針・リーフレットをご確認ください。
註記
本記事は2026年10月1日に施行される制度の概要を紹介するものであり、個別の対応の要否や適法性を判断するものではありません。面接・面談で避けるべき具体的な質問の網羅的な一覧は本記事では作成していません。制度の詳細や自社の対応が十分かどうかについては、必ず所轄の労働局または社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。自社に関する記述は既に公開している範囲(17人・専任の採用担当がいない体制)にとどめ、過去の面接における具体的な事案や個人を特定できる情報は含んでいません。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。17人の会社で、採用担当を置かないまま自ら面接に入り続けている。「うちは何もやっていないかもしれない」に気づいたら言葉にする、を実践中。
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