こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
先月、ある製造業のお客様の会議で、情シス担当の方がぽつりと言いました。
「うち、2027年末で基幹のサポート切れるんですよ。……で、まだ何も決まってません」
SAP ERP 6.0(ECC 6.0)の標準保守が、2027年末で終了します。 国内で約2,000社が使っていると言われている、あの基幹システムです。いわゆる「2027年問題」。
この話、ニュースで見ると大企業の話に聞こえます。実際に記事を書いているのも大手SIerさんやERPベンダーさんで、着地点はだいたい「早めにS/4HANAへ移行しましょう」。間違ってはいません。間違ってはいないんですが、本当に困るのは、その移行予算を取れない中堅企業のほうです。
そして今日は2026年7月。移行に必要な準備期間は、一般に1.5〜3年と言われます。逆算すると、今から本気で動き出す会社にとって、ここが最終ラインです。
まず、3つの選択肢を正直に比較する
中堅企業に残されている選択肢は、大きく3つです。ポジショントークなしで、それぞれ何にお金と時間がかかるかを書きます。

① S/4HANAへ移行する
いわゆる王道ルート。ただし、20年分積み上がったアドオン(独自改修)の数がそのまま費用と期間に跳ね返ります。標準機能に寄せられればコストは下がりますが、それは「業務のやり方を変える」ということ。現場は当然抵抗します。中堅企業でここに踏み切るには、経営がかなり明確に旗を振る必要があります。
② 延命する(保守を延長する/サードパーティ保守に切り替える)
「時間を買う」選択です。悪手ではありません。ただし、延命は問題を先送りにするだけで、その間に何をするかを決めていないと、2029年に同じ会議をすることになります。延命を選ぶなら、「延命期間中に何を終わらせるか」をセットで決めて初めて意味を持つ。
③ 他システムへ刷新する
SAPをやめて別のERPに乗り換える。中堅の業務規模なら現実的な選択肢になり得ますが、データ移行と業務再定義の重さは①とそう変わりません。「安いから」という理由だけで選ぶと、だいたい後で高くつきます。
この3つ、どれを選んでも重い。だから多くの会社が、「重いから決められない」まま2026年の夏を迎えている。これが実態だと思っています。
最初に決めるべきは「移行先」ではなく「捨てるアドオン」
こういう相談を受けたとき、僕らが最初に聞くのは「S/4にしますか、他にしますか」ではありません。
「そのアドオン、いま誰が使ってますか」
20年動いている基幹システムには、たいてい数百本のアドオンがぶら下がっています。そして経験上、その相当数はもう誰も使っていないか、月に数回しか使われていないか、代替可能なものです。
移行の見積もりが跳ね上がるのは、この棚卸しをせずに「現行機能をすべて再現する」前提で数えるからです。逆に言えば、捨てるものを決めるだけで、移行の絵はまったく違う形になります。
棚卸しの順番はこうです。
- 使用ログを取る(過去1年、そのプログラムが何回呼ばれたか)
- 呼ばれていないものを候補に出す(ここで数割が消えます)
- 残ったものを「業務上必須/代替可能/惰性」に3分類する
- 「惰性」を落とす判断を、部門長が署名して確定させる
4番が重要です。情シスだけで決めると、後から「あれがないと困る」と言われて復活します。捨てる判断は、業務側に持たせる。 これは技術の話ではなくて、合意形成の話です。
そして、この棚卸しの結果が出て初めて、①〜③のどれが現実的かが見えてきます。移行先を先に決めるのは、荷物を数える前に引っ越し先の間取りを決めるようなものです。
「全部やり替えない」という現実解
もう一つ、中堅企業にとって現実的な戦い方があります。
基幹はいったん延命しつつ、周辺から先に切り出す。

基幹システムがやっていることのすべてが、基幹システムでなければできないわけではありません。たとえば——
- 受発注:取引先とのやり取り。Webフォームや外部連携で先に切り出せることが多い
- 在庫照会:営業が客先で「在庫あります?」と聞かれる場面。読み取り専用の照会画面を外に出すだけで、現場の体感はかなり変わります
- 帳票:帳票のためだけに生き残っているアドオンは、驚くほど多い
これらを先に外へ出しておくと、いざ本体を移行するときに「移行しなければならないもの」が減ります。移行のリスクを、前倒しで削っておくわけです。しかも、周辺の切り出しは1〜3ヶ月単位で成果が出るので、経営が「進んでいる」と実感できる。全面移行プロジェクトが2年間なにも見せられずに社内の支持を失っていく、という典型的な失敗も避けられます。
これは以前このブログで書いた「レガシー基幹にアダプタを1本だけ架ける」話とも地続きです。全社基盤を作る前に、細い橋を1本、確実に架ける。
生成AIは、ここで効く
「基幹刷新にAIを使う」というと胡散臭く聞こえますが、この文脈での生成AIは、実はかなり地に足がついた効き方をします。
- 仕様書が残っていないアドオンの解析:これが最大の効きどころです。20年前に書かれ、書いた人はもういない。コードだけが残っている。この読解に、いままで人間が何ヶ月もかけていました
- テストケースの生成:移行の工数の多くはテストです。既存の処理から回帰テストのケースを起こす作業は、AIが得意な領域
- データ移行のマッピング:旧テーブルと新テーブルの項目対応表づくり。単調で、量が多く、間違うと致命的。下書きをAIに作らせて人間が検証する形が合います
もちろん、AIが出したものをそのまま使うことはありません。AIに下書きをさせ、人間が判断する。 この境界線をどこに引くかを設計するのが、僕らの仕事です。
17人のITコンサルが、大手SIerと違う関わり方をする理由
正直に書きます。この規模の案件、大手SIerさんのほうが体力はあります。100人投入できます。うちは17人です。
ただ、うちがこの領域で選ばれるときの理由は、だいたい同じです。
工数を売らないから。
移行を生業にしている会社にとって、「移行しない」は売上ゼロの提案です。だから構造的に、「移行しましょう」に着地する。それが悪いと言っているのではなく、そういうインセンティブが働く、という話です。
僕らは要件の交通整理から入ります。捨てるアドオンを決め、周辺から切り出し、結果として移行範囲が半分になれば、それでいい。うちの取り分は減りますが、その会社は次の10年を戦える形になります。
24歳で起業して、いま3期目・27歳。前職はスタートアップのITコンサルでした。そこで見たのは、「正しい提案」より「売れる提案」が通っていく現場です。それが嫌で会社を作った、というのが正直なところです。
だから、要件を交通整理して「捨てる判断」を一緒にできる人を、本気で探しています。この関わり方に少しでも引っかかるものがあれば、K.Platinumの採用ページをのぞいてみてください。
2027年末まで、あと1年半。
まだ間に合います。ただ、「移行するかどうか」を悩んでいる時間はもうありません。 決めるべきは、何を捨てるか。そこからです。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。24歳で起業し、現在3期目。外資系金融向けのITコンサルティングを中心に、要件定義から開発・運用までを手がける。「売れる提案」より「正しい提案」が通る会社をつくることにこだわっている。
K.Platinumでは、製造・流通の基幹システムに向き合えるITコンサルタント/エンジニアを募集しています。「作る」より前の、要件を整理して「捨てる判断」をする仕事に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。

