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2026年9月19日

9月1日から、労基署は「月45時間」を一律には見なくなる — 緩んだのではなく、見るものが変わった

2人の会社員が、2025年5月15日に丸印が付けられたカレンダーについて話し合っている。机の上には戦略書とコップが置かれている。壁には「見るものが変わる」という日本語の文字が書かれている。右側には図表が掲載されている。.

こんにちは、K.Platinum代表の沼田です。

去年、うちで36協定を作り直したとき、僕が気にしていたのは「45」という数字でした。

月45時間。この数字を超えないように設計して、超えそうな月が出たら誰かに相談する。特別条項の欄はもちろん埋めましたが、正直に言うと、そこに何を書いたかは覚えていませんでした。数字の欄の方が重要だと思っていたからです。

その順番が、今日から逆になります。

2026年8月19日、厚生労働省が『時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します』という報道発表を出しました。実施は2026年9月1日、つまり今日からです。

見出しだけ流し読みすると「規制が緩んだ」と読めてしまう内容なのですが、原文を読むとまったくそうではない。むしろ、45という数字だけ見て安心していた会社ほど、見られる範囲はむしろ増えます

うちは17人の受託開発・ITコンサルの会社です。この記事では、何が変わって、何が1文字も変わっていないのかを、自社の36協定を実際に引っ張り出して確かめた側から、3つに絞って書きます。①労基署の指導の何が変わったのか、②代わりに何を見られるのか、③うちが半日で済ませた準備は何か。

9月1日から始まるのは、2つの取組 — 相談窓口の新設と、指導の重点シフト

まず、厚労省の発表そのものを見ます。根拠として挙げられているのは、日本成長戦略経済財政運営と改革の基本方針2026(いずれも令和8年7月21日閣議決定)です。ここで、労働基準監督署による相談支援の充実と、「労働時間や労働者の健康確保措置に関する労使の合意にのっとった指導が行われるよう速やかに見直す」ことが求められた、という流れになっています。

これを踏まえて、9月1日から全国の働き方改革推進支援センターと労働基準監督署で始まるのが、次の2つです。

9月1日から変わること/変わらないこと

① 36協定の締結等に関する相談・支援の充実

全国の働き方改革推進支援センターに、36協定や特別条項の締結、柔軟な労働時間制度の活用を支援する「専門相談窓口」が設けられます。さらに、センターと労働基準監督署(労働時間相談・支援班)のチームによるアウトリーチ型の訪問支援も行われる。加えて、よろず支援拠点や商工会議所等との連携を強化し、労務相談だけでなく経営課題の相談にも対応できる体制を作る、とされています。

② 労働基準監督署における対応の見直し

こちらが本題です。原文を引きます。

時間外・休日労働時間数のみに着目して1か月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、各事業場が36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認し、確認した状況に応じた必要な指導を行うこととします。

そして、この直後にこう続きます。

なお、個々の事業場の実態を踏まえて、過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合には、引き続き必要な指導を行います。

この「なお書き」まで含めて1つの文章です。ここを落とすと意味が反転します。

「緩和された」と読む前に — 労働基準法36条は1文字も変わっていない

僕が最初にこのニュースをタイムラインで見たとき、目に入ったのは「45時間の指導が見直し」という部分だけでした。反射的に「じゃあ少し余裕ができるのか」と思ったのを覚えています。

でも、労働基準法36条の上限規制は1文字も変わっていません。

時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間。特別条項を結んでも、年720時間以内、複数月平均80時間以内、単月100時間未満、月45時間を超えられるのは年6か月まで。これは法律の話で、今回の発表は法律の話ではない。今回変わったのは、労働基準監督署という行政機関が、監督指導の場で何を重点的に見るかという運用の話です。

法律の上限と、行政の運用。この2つが同じ「45時間」を扱っているせいで混同されやすいのですが、動いたのは後者だけです。だから「緩和」ではなく、「見るものが変わった」。数字だけ見て終わりにしていた会社にとっては、見られる範囲が増えたとすら読めます。

重点的に見られるのは、様式第9号の2に書いた「9つの措置」

では、重点的に確認されることになった「36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置」とは何か。

これは、特別条項付きの36協定を届け出るときの様式(様式第9号の2)に記載欄がある項目です。限度時間を超えて労働させる労働者に対して、どんな措置を講じるかを協定して書く欄で、指針では次の9つの事例が示されています。

健康・福祉を確保するための措置の9事例

① 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
深夜業の回数を1か月について一定回数以内とすること
③ 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間(勤務間インターバル)を確保すること
④ 勤務状況及び健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
⑤ 勤務状況及び健康状態に応じて、健康診断を実施すること
⑥ 年次有給休暇について、まとまった日数連続して取得することを含め取得を促進すること
⑦ 心と体の健康問題についての相談窓口を設置すること
⑧ 勤務状況及び健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換すること
⑨ 必要に応じて産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に保健指導を受けさせること

この一覧を見て、僕がやったことは1つです。自社の36協定を開いて、うちがどれを選んで書いていたかを確認しました。

結果を書くと、選んでいた項目自体は、うちの実態に合っていました。合っていなかったのは、「実施状況を説明できる状態か」のほうです。選んで、書いて、届け出て、そこで終わっていた。実施したかどうかを記録に残す仕組みまでは作っていなかった。

今回の見直しで重点的に確認されるのは、協定に何を書いたかではなく、書いたことの実施状況です。ここが、僕にとっていちばん効きました。

受託開発の残業は、平らに発生しない

「45時間」を一律に見なくなる、というのは、受託開発の会社にとってはかなり実感のある話です。

うちの業界の残業は、平らに発生しないからです。リリース前の1週間、本番障害の一次対応、月末の締めや検収。どれだけ設計しても、山ができる工程が構造的に存在します。しかも相手のある仕事なので、自社の都合だけで山を崩せない。

だから「月45時間以内に平らにならしてください」という指導は、現場感覚としては達成すべき目標としては正しいが、単月で切ると実態と噛み合わないことがありました。

一方で、「山が出た月に、何をしたか」なら答えられる。翌日の始業を遅らせたのか、代休を入れたのか、深夜作業を交代制にしたのか。そちらのほうが、実は僕らが日常的に判断していることです。

今回の見直しは、その日常的な判断のほうを見るという話なので、僕は方向としては噛み合っていると思っています。ただし、噛み合うのは記録している会社だけです。やっていても記録していなければ、実施状況として説明できない。ここは、はっきり有利不利が出る。

17人の会社が、半日で終わらせた2つの準備

大掛かりなことはしていません。2つだけです。

① 36協定で選んだ措置を、勤怠システムの用語に翻訳した。

協定に書いてあるのは「代償休日又は特別な休暇の付与」といった、法令側の言葉です。一方、現場が実際に押しているのは勤怠システムの申請ボタンで、そこには別の名前がついている。この2つが結びついていないと、実施状況を数えられません。

やったのは、協定の項目と勤怠の申請区分を並べた対応表を1枚作っただけです。A4で収まりました。これで「今期、③をどれだけ運用したか」が数えられる状態になります。

② 「山が出た工程」に名前を付けた。

夜間リリース、本番障害の一次対応、月末の締め。この3つに限って、発生したら記録を残すことにしました。残業時間の記録ではなく、山が出た理由の記録です。

理由が3種類しかないと分かれば、それぞれに対する措置も3種類で済みます。全部の残業に個別対応しようとすると続かないので、先に分類してから措置を決める順番にしました。

どちらも、制度がこの先どう転んでも無駄にならない範囲に収めたつもりです。

こういう「山が出る前に手を打つ」判断に、17人の規模だと全員が関われます。→ エンジニア募集中。K.Platinumの働き方と条件を見る

実務に効くのは、むしろ「相談できる場所ができた」ほう

もう1つの柱、専門相談窓口とアウトリーチ型の訪問支援についても書いておきます。

正直、これまで36協定について「どこに聞けばいいのか」がよく分かっていませんでした。労基署に聞くのは、なんとなく身構える。かといって、自社だけで様式の裏面を読んでも、選択肢の意味までは判断しづらい。

今回、働き方改革推進支援センターに専門相談窓口が置かれ、しかも労基署とのチームで訪問支援まで行うという形になりました。相談する側からすると、指導される場所と相談できる場所が、少なくとも制度上つながったということです。

うちのような規模の会社にとっては、こちらの変更のほうが日々の実務に効くかもしれません。よろず支援拠点や商工会議所との連携で、労務だけでなく経営課題の相談にも対応する体制を作るとも書かれています。

まとめ — 数字を守ることと、説明できることは別

整理します。

  • 2026年8月19日、厚生労働省が『時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します』を発表。実施は2026年9月1日から
  • 根拠は日本成長戦略および経済財政運営と改革の基本方針2026(いずれも令和8年7月21日閣議決定)
  • ① 働き方改革推進支援センターに専門相談窓口を設置。労基署とのチームによるアウトリーチ型訪問支援も実施
  • ② 労基署は、時間外・休日労働時間数のみに着目した「月45時間以内」への一律指導を見直し、36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認する
  • ただし、過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合には、引き続き必要な指導が行われる
  • 労働基準法36条の上限規制そのものは変わっていない。 今回変わったのは監督指導の運用

僕がこの発表から受け取ったのは、「45時間を守っていれば大丈夫」でも「45時間を超えていい」でもなく、「自社が何を約束して、それを実際にやったかを説明できますか」という問いです。

そして、その問いに答えるためのコストは、山が出た後に払うより、出る前に払ったほうが圧倒的に安い。うちがやったのは対応表1枚と分類3つで、どちらも半日で終わりました。


※ 本記事は2026年9月1日時点の公開情報にもとづきます。厚生労働省の2026年8月19日発表『時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します』および36協定の様式・指針を参照していますが、記事内の整理は筆者によるものです。自社の36協定の内容、健康及び福祉を確保するための措置の選択・実施、監督指導への対応については、管轄の労働基準監督署・都道府県労働局、または社会保険労務士にご確認ください。本記事は個別の事業場の適法性を判断するものではありません。

参考:
- 厚生労働省『時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します』(令和8年8月19日発表・https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75454.html )/リーフレット『労務管理の「困った!」を解決 私たちが重点的にサポートします』
- 日本成長戦略/経済財政運営と改革の基本方針2026(令和8年7月21日 閣議決定)
- 労働基準法施行規則 様式第9号の2(記載心得)および限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置に関する指針


沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。ITコンサルティング・受託開発とエンジニア育成事業を手がける。「エンジニアが正当に評価される社会」を掲げ、17人の会社の制度づくりにも自分で手を動かしている。


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