こんにちは、K.Platinum代表の沼田です。
うちは17人の受託開発・ITコンサルの会社で、人事部はありません。労務まわりは、僕と経理担当と顧問の先生で回しています。だから法改正は、誰かが整理してくれるのを待っていると、そのまま施行日を迎えます。
8月3日に厚生労働省のWebマガジンに出たコラム、「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります―3つの改正ポイント」。同一労働同一賃金の話で、施行日は2026年10月1日。調べていくと、明示を怠れば10万円以下の過料の対象になり得る、という話まで出てきました。
うちに直撃するのか、しないのか。 それを確かめるところから始めて、9月中にやることが2つ決まりました。この記事は、その確認と判断の記録です。
先に線を引きます。フリーランスの話ではありません
いちばん大事なので最初に書きます。
この改正の対象は「パートタイム労働者」と「有期雇用労働者」=自社と雇用契約を結んでいる人です。業務委託で関わってもらっているフリーランスの方は、この法律の対象ではありません(フリーランスとの取引には別の法律があり、そちらはそちらで守るべきルールがあります)。
受託開発の会社は業務委託の比率が高くなりがちで、ここを混ぜると社内の説明が全部おかしくなる。うちも最初に、契約の種類ごとに人を分けるところからやりました。
- 正社員(無期・フルタイム)
- パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が正社員より短い人)
- 有期雇用労働者(期間の定めのある労働契約の人。フルタイムでも該当します)
- 業務委託(雇用契約ではない = 今回の対象外)
判断は呼び名ではなく契約の中身です。「パート」「アルバイト」「契約社員」といった名称は関係ありません。
この分類で全員を並べれば、改正が何人に効くのかは出ます。 うちの内訳は書きませんが、「全員正社員だから関係ない」と口で言うのと、名簿で確認するのは別でした。契約書を1枚ずつ見るまで、僕も正確には答えられなかったので。
ポイント① 雇用契約書に1行増える。しかも「更新のたび」に

パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れるときは、労働基準法で決まっている事項に加えて、次の4つを書面の交付等により明示することが義務づけられています。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口
今回の改正で、ここに5つ目 ──「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨が加わります。
要するに、「正社員との待遇の違いについて、会社に説明を求めていいですよ」と、会社の側から先に伝えておくということ。厚労省のコラムには、疑問が生じた際に相談を促すのが目的だと書かれています。
作業自体は雇用契約書(労働条件通知書)の雛形に1行足すだけで、半日もかかりません。ただ、注釈のほうが実務的に重いと思いました。
「雇い入れたとき」には、労働契約の更新時も含みます。
つまり一度直して終わりではなく、更新のたびに発生する。更新のオペレーションに組み込まないと、雛形は直したのに現場で古い書式が使われるという、いちばんありがちな抜け方をします。
少し安心したのは、施行日前から雇っている人に新様式を一律で配り直す必要はないこと。新たな明示が要るのは10月1日以降の雇い入れ時で、有期雇用の人は10月1日以降の更新時点で対象になります。怠れば10万円以下の過料の対象になり得ます。
うちがやったのは、雛形の修正と更新チェックリストへの項目追加。この2つはセットでないと意味がない。厚生労働省がモデルの労働条件通知書を公開しているので、ゼロから考える必要はありません。
ポイント② 手当より先に効くのは、たぶん夏季冬季休暇です
2つ目は、同一労働同一賃金ガイドラインの改正です。「どういう待遇差が不合理と認められるのか」を具体例つきで示す文書で、今回、裁判例などを踏まえて賞与・退職手当・各種手当・福利厚生の記載が見直されました。コラムで名指しされているのは3つです。
- 家族手当 … 相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期雇用労働者に対し、正社員と同一の手当を支給しなければならない
- 住宅手当 … 正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパート・有期雇用労働者に対し、正社員と同一の手当を支給しなければならない
- 夏季冬季休暇 … パート・有期雇用労働者に対し、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない
手当の2つには条件がついています。家族手当は「相応に継続的な勤務が見込まれる」、住宅手当は「転居を伴う配置の変更が同一である」。該当するかを判断する余地がある。
夏季冬季休暇には、その条件がありません。
ここでいったん手が止まりました。「正社員だけ夏休みが長い」をなんとなく続けてきた会社は、10月で理屈が立たなくなるということだからです。しかも休暇は、手当と違って全員が毎年必ず体感する待遇。差があれば絶対に気づかれます。
そして休暇は、制度としては直すのがいちばん簡単でもあります。就業規則と運用だけで、金額の再設計が要らない。簡単で、効いて、気づかれやすい。 優先順位としては、ここが一番上だと思いました。
背筋が伸びた点が2つ。「正社員の確保・定着のため」という目的だけでは、待遇差は当然には認められないこと(いちばん使いがちな説明がこれです)。そして差を解消するときは正社員を引き下げるのではなく、パート・有期雇用側の待遇を改善する方向でとされていること。辻褄合わせで下に揃えるのは想定されていません。
ポイント③ 説明の「方法」が2択になって、採用ページに1項目増える
3つ目が、僕にとっては一番の発見でした。まず、説明の方法が限定されます。待遇の相違等を説明するときは、次のどちらかによることが必要になります。
- 資料を活用し、口頭により説明する方法
- 説明すべき事項を全て記載した分かりやすい内容の資料を交付する等の方法
つまり、口頭だけで済ませるのは想定されていない。「聞かれたら答えます」ではなく、答えるための紙を先に作っておく話になりました。賃金についても、職務の内容・成果・意欲・能力・経験といった要素を公正に評価し、昇給に反映するなど、公正な評価に基づいて決定することが求められると書かれています。
そして、採用担当が読むべきなのはここです。

正社員等への転換制度の内容や転換実績などを、パート・有期雇用労働者に明示するよう努めること。そして、それらをウェブサイトで定期的に公表することが望ましい。
採用ページに書く項目が、1つ増えました。
義務ではなく「望ましい」ですが、ウェブサイトでの定期的な公表が望ましいとされた以上、これは労務の話であると同時に採用広報の話でもあります。
しかも、書ける会社と書けない会社がはっきり分かれます。転換実績はゼロなら「ゼロ」としか書けない。 逆に言えば書けること自体が差別化になる。求職者からすれば「正社員になれます」より「何人なりました」のほうが情報量が多いので。
うちが9月中にやると決めた2つ目が、これです。採用ページに、転換制度と実績を載せる欄をつくる。 数字を作るのはこれからですが、欄がなければ、実績が出ても載る場所がない。
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小さい会社ほど有利です ── 問われているのは差の有無ではなく、説明できるかどうか
この改正で問われているのは、待遇に差があるかどうかではなく、差の理由を説明できるかどうかです。差があること自体は、不合理でなければ問題になりません。そして、説明できるかどうかは、制度が複雑かどうかでほぼ決まります。
手当が20種類、等級が10段階、事業所ごとに運用が違う会社は、説明する前に自社の制度を調べるところから始まります。担当者が異動していれば、なぜその手当があるのかを知る人が社内にいない、ということも起きる。
17人の会社には、その問題がありません。全部の待遇について、なぜそうしているかを僕が答えられる。 答えが正しいかは別として、少なくとも理由が存在しないということはない。これは小さい会社の数少ない構造的な有利さで、今のうちに文書にしておけば、人が増えても説明できる会社のまま行ける。増えてから遡って理由を復元するのは、たぶん無理です。
僕は前職まで、製造・金融という大きな組織を見てきました。複雑な制度は、複雑にしようとしてそうなったのではなく、その都度の正しい判断が積み重なった結果そうなる。だからこそ、積み上がる前に書いておく価値がある、と思っています。
まとめ
- 2026年10月1日からルールが変わる(対象は雇用契約を結んでいる人。業務委託・フリーランスは別の法律の話)
- ① 明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨が追加。更新時も含むので更新のオペレーションに組み込む必要があり、怠れば10万円以下の過料の対象になり得る
- ② ガイドラインが改正され、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇の考え方が明確化。夏季冬季休暇には条件が付いておらず、実務でいちばん効く
- ③ 説明は「資料を活用した口頭説明」か「資料の交付等」のいずれかが必要に。加えて正社員転換の制度と実績のウェブサイト公表が望ましいとされた
- うちが9月中にやると決めたのは、雇用契約書の雛形+更新チェックリストの修正と、採用ページに転換実績の欄をつくることの2つ
10月に何かが変わるというより、説明できるようにしておく期限が10月だった、という感じです。うちは制度が小さいぶん、まだ間に合いました。
※ 本記事は2026年9月4日時点の公開情報にもとづきます。内容は厚生労働省Webマガジン コラム(2026年8月3日公開)を原典とし、社会保険労務士による解説記事で補足的に確認した範囲のもので、改正省令・改正指針の条文そのものを参照したものではありません。個別の労働者が対象になるか、自社の待遇差が不合理と評価されるかについては、厚生労働省の同一労働同一賃金特集ページおよび都道府県労働局の窓口をご確認のうえ、必要に応じて社会保険労務士等の専門家にご相談ください。本記事は特定の企業の適法性を判断するものではありません。
参考:
- 厚生労働省 Webマガジン コラム「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります―3つの改正ポイント」(2026年8月3日) https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/column/20260803.html
- 厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
- 厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum 代表。製造・金融業界でのキャリアを経てK.Platinumを創業。エンジニアが実力で正当に評価される会社をつくることを目指している。
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