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2026年10月7日

研修を受けた人が減ったのに、「できる」と答えた人は増えた ── 受講率71.0%の調査を、十数人の会社の育成に置き換えて読む

オレンジ色の線が上昇し、青色の線が下降しているホワイトボードを見つめている若い男性。その横にはトレーニング量が減少しましたという日本語の文字が書かれている。.

研修を受けた人が減ったのに、「できる」と答えた人は増えた

こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。

うちは十数人で、ITコンサルティングと受託開発をやっている会社です。教育系のサービスは作っていないし、研修事業もやっていません。だから今日紹介する調査は、本来まったく関係のないものです。

文部科学省が2026年8月に公表した『令和7年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果』。全国の公立学校を対象に、ICT環境の整備状況と、教員のICT活用指導力を調べたものです。調査基準日は令和8年3月1日で、公表されているのは速報値です。

関係ないんですが、読んでいて手が止まりました。うちの育成の話と、まったく同じ形をしていたからです。

先に結論を書いておきます。この記事で言いたいのは「育成がうまくいっているかどうかを、自己評価と感覚だけで判断していないか」という一点です。学校の調査ですが、たぶん人を育てているすべての組織に当てはまります。

※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。数値は速報値であり、確定値で変わる可能性があります。


まず、この数字は「何を測ったのか」── 能力ではなく、自己申告

数字を出す前に、これだけは先に書かせてください。ここを飛ばすと記事全体が的外れになります。

この調査の「教員のICT活用指導力」は、16の小項目について、教員が自分で4段階評価をつけた結果です。「できる」もしくは「ややできる」と答えた人の割合を、大項目ごとに平均したもの。

つまり、能力を測定した数字ではありません。自己申告です。

これは調査の欠陥ではなくて、そもそもそういう設計の調査です。全国の教員一人ひとりに実技試験を課すわけにはいかないので。ただ、読む側が「教員のスキルが上がった」と読んでしまうと、それは調査が言っていることではなくなります。

もう一つ、母数の定義も丁寧に書かれていました。対象は「授業を担当している全教員」なんですが、その但し書きとして、

「授業を担当している教員」とは、各教科等の授業を定期的に担当している教員をいう。授業を一時的・臨時的に担当する教員は含まない。

とあります。誰が答えたのかがきちんと定義されている。こういう但し書きを読むのが、僕はけっこう好きです。


並べると、逆を向いている2つの線がある

さて、本題です。公表された数字のうち、僕が気になったのは2つでした。

① 教員のICT活用指導力(自己評価)は、4つの大項目すべてで前年度より上がっている。(教材研究・指導の準備・評価・校務など91.1%/授業にICTを活用して指導する能力83.4%/児童生徒のICT活用を指導する能力84.0%/情報活用の基盤となる知識や態度89.7%)

② ICT活用指導力に関する研修を受講した教員の割合は、71.0%。前年度(令和6年度・確定値)の73.5%から2.5ポイント下がっている。

研修を受けた人は減った。でも「できる」と答えた人は増えた。

グラフにすると、2本の線が逆を向いています。

もちろん、これを見て「研修に意味がない」と読むのは短絡です。可能性はいくらでもある。日常業務の中で使うこと自体が習熟になっているのかもしれない。既にできる人が増えたから研修の必要性が下がったのかもしれない。研修に行きたくても行けないほど忙しいのかもしれない。

というより、受講率の低下を「怠慢」として読むのはたぶん一番ありえない読み方だと思っています。学校現場の多忙化はずっと言われ続けていることで、研修に出る時間を捻出できないという説明のほうがはるかに自然です。ここで主語にすべきは制度と数字であって、人ではない。

僕が引っかかったのは、もっと単純なことです。

「できる」が増えていることは、育成がうまくいっている証拠にならない。

自己評価の数字は、上がるべき理由がなくても上がります。人は慣れたものを「できる」と答えるからです。毎日触っていれば、触れる範囲の中では確かにできるようになる。でもそれは、触っていない範囲があることに気づかなくなっていく過程でもあります。

これ、会社の中でめちゃくちゃ見覚えがあるんですよ。


「1.1台/人が4年連続」の裏で、分母のほうが速く減っている

分母が、速い

もう一つ、同じ調査の中で並べると意味が出てくる数字がありました。

児童生徒1人当たりの学習者用コンピュータは 1.1台/人。これは令和5年3月以降、4年連続で同じ数字です。

普通に読めば「配備が完了して、そこから動いていない」です。実際そう報じられてもいる。

でも、内訳の数字を見ると少し違う絵になります。ここからは僕の計算で、原典に書かれていることではありません。発表された数字を並べて割っただけです。

直近1年の変化は、

  • 学習者用コンピュータ:11,847,256台 → 11,881,981台(+34,725台/+0.29%)
  • 児童生徒数:10,895,258人 → 10,717,138人(−178,120人/−1.6%)

分母のほうが、5倍以上速く減っています。

つまり「1.1台/人が動いていない」のは、台数が止まっているからではなく、台数も子どもの数も動いていて、たまたま比率が同じところに着地しているということです。

比率って、こういう嘘をつきます。

分子と分母が両方動いているとき、比率だけを見ていると「何も起きていない」ように見える。でも実際には、分母が減り続けている限り、同じ比率を保つのに必要な投資は年々減っていく。同じ数字が続いているのに、その裏の意味は毎年変わっている。

会社の指標でも同じことが起きます。「離職率が去年と同じ」と言うとき、母数の社員数が変わっていないかどうかで、その数字の意味は全然違う。12人の会社で1人辞めれば8.3%ですが、20人になっていれば5%です。同じ「1人辞めた」なのに、比率だけ見れば改善に見える。


研修の6割は、学校が自分でやっている

3つ目に、この調査で一番好きだったのがこの数字です。

教員が受けた研修の実施主体の内訳は、

  • 学校 60.0%
  • 市区町村 16.7%
  • 教科等の研究会 8.1%
  • 都道府県 7.5%
  • 民間 4.0%
  • その他 1.6%
  • 国・独立行政法人 1.5%
  • 各種学会 0.6%

学校が6割。国と独法を合わせて1.5%。

これはつまり、育成の実態は制度ではなく現場が回しているということです。上から降ってくる研修プログラムが人を育てているのではなくて、それぞれの学校が、それぞれのやり方で、それぞれの都合の中でやっている。

うちの話をすると、十数人の会社に「研修制度」と呼べるほどのものはありません。あるのは、先輩がプルリクエストにコメントを書くことと、案件の振り返りをやることと、詰まったときに横で画面を見ることくらいです。

以前はそれを、制度が無いことの言い訳のように感じていました。ちゃんとした会社には体系立った研修プログラムがあるんだろうな、と。

でもこの内訳を見て、少し考えが変わりました。60%というのは、現場でやるのが例外ではなく標準だということです。全国の公立学校という、日本でいちばん制度が整っていそうな場所でも、育成の主戦場は各現場にある。

だとすれば、うちが用意すべきなのは「研修制度」という名前ではなくて、現場でやっていることを、ちゃんと数えられる形にすることのほうです。

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自己評価が上がったとき、「何と比べて4なのか」を聞く

自己評価

採用の面接で、スキルシートを見る機会があります。項目ごとに5段階で自己評価がついているやつです。

あれを読むとき、僕は数字そのものより「何と比べて4なのか」を聞くようにしています。前の会社の中で4なのか、業界で4なのか、去年の自分と比べて4なのか。同じ4でも意味が全然違うので。

これは相手を疑っているのではなくて、自己評価という道具の性質の話です。誰がつけても、比較対象が書かれていなければ読めない。

今回の調査を読んで思ったのは、これを会社が自分に対してもやるべきだということでした。

うちの社員が去年より成長しているかどうかを、僕は正直、感覚で判断しています。「最近いい感じだな」とか「任せられる範囲が増えたな」とか。でもそれは、僕という自己評価者が1人でつけている4段階評価でしかない。

研修を受けた人が減ったのに「できる」が増える、という現象は、たぶんどこの組織でも起きます。人は慣れたものをできると答えるし、上司は見慣れた部下を成長したと感じる。

だから数えるしかない。誰が何をどれだけやったのか。任せた仕事が何件で、そのうち手戻りが何件だったのか。十数人ぶんなら、数えられない量ではありません。

制度が無いのは別にいいと思っています。全国の学校の6割も、制度ではなく現場でやっている。

でも、数えていないのは、たぶんよくない。

自分がつけた4なのか、数えた結果の4なのか。その違いだけは、はっきりさせておきたいと思っています。


出典
文部科学省『令和7年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【速報値】』(調査基準日:令和8年3月1日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00095.html
統計表:政府統計の総合窓口(e-Stat)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400306

前年度比較に用いた数値:文部科学省『令和6年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)(令和7年3月1日現在)【確定値】』(令和7年10月公表)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00080.html

註記
本文中の「+34,725台/+0.29%」「−178,120人/−1.6%」「分母のほうが5倍以上速く減っている」は、公表された数値を筆者が計算して求めたものであり、文部科学省が示した数値・見解ではありません。また、教員のICT活用指導力に関する数値は16小項目の4段階自己評価にもとづく回答割合であり、能力の測定結果ではありません。本調査結果は速報値であり、確定値において数値が変わる可能性があります。研修受講率の変化について、本記事は原因を特定するものではありません。


沼田 海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。製造・金融業界でのキャリアを経て、2023年にK.Platinumを設立。ITコンサルティングから開発・リリースまでを一気通貫で手がける体制づくりと、エンジニアが正当に評価される仕組みづくりに取り組んでいる。


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