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2026年7月29日

取引先が「AIエージェント」を送り込んできた日 — 見積もり交渉が数日から80秒になった2026、17人ITコンサルが顧客に用意した「3つだけ」の備え

ある男性が、文書やデータを表示する光り輝くAIエージェントとやり取りしている。画面上部には日本語のテキストが表示され、背景には未来的なオフィスの要素が映し出されている。.

こんにちは。ITコンサルティングと受託開発、それにプログラミングスクールをやっている会社の代表、沼田です。17人・フルリモートで、そのうち8人が高専卒の会社をやっています。

先日、支援先の中堅製造業で、購買のご担当がこう言いました。

「この前、見積もりを出したら、80秒で返事が来たんですよ。人間じゃないですよね、あれ」

その通りでした。相手企業が調達交渉にAIエージェントを使い始めていたんです。

取引の相手が人間でなくなったとき、こちら側に何が必要になるか。 結論から言うと、うちがその会社に用意したのは3つだけです。全社をAI対応にする、という話ではありません。今日はその3つと、なぜそれで足りると判断したかを書きます。


MCPは社内をつなぐ。A2Aは会社と会社をつなぐ

社内をつなぐ / 会社をつなぐ

まず用語の整理から。

前に、MCPという規格の話を書きました。あれは社内システムとAIをつなぐための差込口です。生産管理や在庫にAIから触れるようにする、内側の話。

対してA2A(Agent2Agent)は、会社と会社のAIがやり取りするための規格です。2025年4月にGoogleが公開し、いまはMCPと同じくLinux Foundationがホストしています。そして2026年4月9日、Linux FoundationはA2Aが初の安定版であるv1.0に到達し、賛同組織が150を超えたと発表しました(1年前は50社超)。Google・Microsoft・AWSは、すでに自社のAI基盤にA2Aを組み込んでいます。

この発表で面白いのは、Linux Foundation自身が「A2AはMCPの代替ではなく、補完である」と明記していることです。MCPは社内のツールやデータにつなぐもの、A2Aは組織の境界をまたいで通信するもの。内と外で役割が分かれている。冒頭の整理は僕の私見ではなく、標準側の公式見解です。

しかもv1.0では、相手のエージェントが名乗ったとおりの相手かを暗号的に検証するSigned Agent Cardが入りました。周辺では、決済まで踏み込むAP2(Agent Payments Protocol)に決済・金融の60社超が賛同しています。交渉だけでなく、支払いまで射程に入っているということです。

実例も出ています。NECは、2024年にグループ会社で行った実証で、約1,300品目の調達交渉を対象に、完全自動での合意達成率95%、交渉時間を従来の数時間〜数日から約80秒に短縮したと公表しました。しかもこれは実験で終わっていません。2025年12月から年額3,600万円〜の商用サービスとして販売され、今後5年で100社への提供を目標に掲げています。「いずれ来る話」ではなく、すでに値札が付いているというのが重要です。

そして三菱総合研究所は2026年4月、こうした「A2A経済」の広がりとともに生じるリスクとして、エージェント同士の誤調整・衝突・共謀を整理しています。ここは後で、現場の言葉に翻訳します。


機械が読めないだけで、候補から落ちる

中堅の製造・流通の現場で、最初に何が起きるか。僕の見立てはこうです。

相見積もり・在庫照会・納期回答が「機械可読でない」というだけで、候補から落ちる。

いまも多くの会社は、価格表をPDFで送り、在庫は電話で答え、納期は担当者がメールで返しています。人間が相手なら、それで何も困りません。むしろ丁寧です。

でも、買い手側のAIが100社に同時に問い合わせを投げる世界では、返事が構造化されていない会社は、比較のテーブルに乗る前に脱落します。 悪意で落とされるのではなく、「読めなかった」から落ちる。これが一番怖い。落ちたことにすら、気づけないからです。

支援先の情シスの方が、青い顔でこう言っていました。「うちの見積もり、Excelの体裁がめちゃくちゃ凝ってるんですよ。あれ、AIが読めますかね」。セル結合だらけの、あの力作です。読めないと思います、と正直に答えました。


顧客に用意した最小構成は3つだけ ── 窓口・線引き・記録

窓口は、1つでいい

じゃあ全社をA2A対応にするのか。しません。年単位・億単位になって、途中で止まります。うちが用意したのは3つだけです。

ひとつめ、価格・在庫・標準納期を、機械が読める形「でも」出せるようにする。 PDFやExcelをやめる必要はありません。「でも」出すのがポイントです。人間向けの体裁はそのままに、同じ内容を構造化データでも返せる窓口を1つ作る。既存の基幹には手を入れず、参照用のビューの上に薄い窓口を1本。前に書いた「アダプタを1本だけ架ける」のと、まったく同じ発想です。

ふたつめ、AIに答えさせてよい範囲と、人が必ず出る範囲を先に線引きする。 在庫数と標準納期はAIが答えていい。値引き・特注・与信に関わる話は、必ず人が出る。 ここを曖昧にしたまま自動応答を始めると、事故ります。設計で最初に決めるのは「渡すもの」ではなく「渡さないもの」だという話も、前に書いた通りです。原価と仕入先ごとの単価は、窓口の外に置く。

この線引きで大事なのは、中途半端に任せないことです。サイボウズの生成AIチームも、AIエージェントとの協業について「中途半端な委任は、人間とAIの間でコンテキストを何度も受け渡すことになり、かえって効率が下がる」と書いています。任せる範囲は狭くていい。ただし、その範囲の中では任せ切る。「一応AIに答えさせて、あとで人が全部見直す」が一番よくない。

みっつめ、相手がAIでも、記録が残るようにする。 誰の指示で、何を根拠に、どの条件で合意したのか。人間同士なら「あのときの電話で」が通じますが、エージェント間の合意には、それがありません。ログを残していないと、後で揉めたときに一切遡れない。AIが速くなるほど、記録の価値は上がります。 三菱総研も、事故が起きた後の原因究明としてログ保全とフォレンジック調査を挙げています。相手が誰だったかは標準側(Signed Agent Card)がある程度担保してくれますが、何を根拠に合意したかを残すのは、自社の仕事です。

エンジニア募集中です。 こういう「どこまでAIに任せるか」を顧客と一緒に決める仕事に興味がある方は、K.Platinumの採用ページをのぞいてみてください。


「誤調整・衝突・共謀」を、受発注の現場語に直す

三菱総研の挙げる3つのリスクを、現場の言葉に訳すとこうなります。

誤調整。 需要予測・生産管理・在庫・調達を、それぞれ別のエージェントに任せたときに起きます。需要予測が増産を要請し、在庫担当が安全在庫を引き上げ、調達が発注を増やし、納期が延びた結果また「もっと確保しろ」と返ってくる。各エージェントは全員、自分の役割に沿って合理的に判断しています。 なのに、相互作用で過剰確保だけが膨らんでいく。人間なら誰かが「一旦止めよう」と言えますが、AIは人が気づく前に連鎖を走り切ります。

衝突。 相手のAIが値引きを引き出そうと押してきて、こちらのAIが「まあいいか」と応じ続ける。それが1,300品目で同時に起きる。1件ごとの譲歩は小さくても、合計すると利益が溶けます。人間なら「今月これ以上は無理です」とどこかで止まりますが、AIは指示された範囲でひたすら最適化します。

共謀。 これが一番、他人事に聞こえて他人事じゃない。ドイツの小売ガソリン市場を対象にした実証研究では、アルゴリズム価格設定ソフトの普及が利幅の上昇と関連したことが示唆されています。米司法省は、賃料設定ソフトのRealPageを「競合する家主のデータ共有とアルゴリズム推奨によって価格上昇を招いた」として提訴しました。明示的な合意がなくても、同じ道具を使っているだけで暗黙の協調が生まれうる。 うっかりすると、こちらが加担する側になります。

だから、自動値引きの暴走を止めるのは、技術ではなく社内ルールです。 下限価格を誰が決めるのか。どこからは人に上げるのか。これは情シスの仕事ではなく、経営の仕事です。前職のスタートアップITコンサルにいた頃、僕は「仕組みで解ける」と思い込む癖がありました。24歳で起業して3年ちょっと、いま思うのは、技術で自動化する範囲を決めるのは、いつも人間の合意だということです。


まとめ:窓口を、1つ作るところから

A2Aは2026年に安定版になり、150を超える組織が乗りました。交渉は数時間〜数日から80秒になり、それはもう年額の値札が付いて売られています。そのとき、こちらの情報が機械に読めなければ、比較の土俵にすら乗れません。

でも、いきなり全部やる必要はない。価格・在庫・納期を出す「AIに読ませる窓口」を、1つ作る。 渡さないデータを先に決める。人が必ず出る線を引く。記録を残す。それだけで、当面は十分です。

「うちはまだAIとは関係ない」と思っている会社ほど、危ないと思っています。関係あるかどうかを決めるのは、もう自社ではなく、取引先のAIだからです。


沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。ITコンサルティングと受託開発、プログラミングスクールを手がける。エンジニアが正当に評価される社会をつくることを目指している。


K.Platinumでは一緒に働くエンジニアを募集しています。「実力で正当に評価される環境」に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。

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