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2026年6月10日

"内製化に失敗する会社"の共通点 — ITコンサル17人が現場で見た3つの落とし穴

プラットフォームに立ち、未来的なグリッド上で青く光るピクセルに分解していくように見える大きなデジタルキューブを観察する人物。.

「内製化、止めようと思います」

先月、ある上場企業のCIOから、こんな相談を受けた。3年前、僕たちが内製化支援に入った会社だ。プロダクトはちゃんと動いているし、エンジニアも十数名残っている。失敗じゃない。でも"止める"判断をしたという。

理由を聞くと、「経営の体力が持たなくなりそうだから」だった。

K.Platinum代表の沼田です。今日は、内製化推進が当たり前になった2026年だからこそ書いておきたい話をする。設立3期目・27歳で、エンジニア17人のITコンサルを経営している僕が、実際に現場で見てきた「内製化に失敗する会社」の共通点だ。


なぜ今、"内製化に失敗する会社"の話を書くのか

経産省の「DXレポート」が"内製化推進"を打ち出してから5年以上が経つ。多くの大手・中堅企業が、ベンダー依存からの脱却を掲げて、エンジニアの正社員採用を加速してきた。その流れ自体は、僕も基本的に正しいと思っている。

でも一方で、ここ1〜2年、ある現象が起きている。

「2020〜2023年に内製化を進めたが、思うように回らない」と相談に来る会社が、明らかに増えている。"内製化2周目"みたいな状態だ。一度やってみて、思ったほどうまくいかなかった。何が間違っていたのかを、外の目で見てほしい。そういう依頼が、設立3期目の小さな会社にも届くようになった。

僕たちK.Platinumは、SI×ITコンサルというスタイルで、戦略立案から開発・運用まで一貫して伴走している。立場としては"内製化を支援する側"なのだが、最近はむしろ「過剰な内製化のバランスを戻す」依頼の方が多い。

その経験から、はっきりと共通する3つの落とし穴が見えてきた。今日はそれを正直に書く。


落とし穴①:「採用すれば内製化できる」と思っている

図解:3つの落とし穴

一番多いパターンがこれだ。

役員会で「DXのために内製化を進めます」と決まる。すると、まず人事に降りてくる指示は「エンジニアを◯◯名採用する」になる。半年で5人、1年で10人、みたいな数値目標が立つ。

ここで、ほぼ必ず抜け落ちているのが、"アーキテクトとCTO候補が先にいるか" という問いだ。

アーキテクトがいない状態で正社員エンジニアだけを集めると、何が起きるか。書ける人は集まったのに、何を書くべきかを決められる人がいない、という構造になる。結果、各エンジニアが手元の課題を個別に最適化しはじめる。技術選定はバラバラになり、3年後には"職人技で動いているが誰もメンテできないシステム"が量産される。

僕が現場で見たケースでは、こんな会社があった。1年で12名のエンジニアを採用したのに、半年経ったら、その中のシニア2人を取り合うように各部署が殴り合っていた。なぜそうなるか。事業部から個別に「こういうの作って」と要望が直接落ちてくるからだ。アーキテクトがそれを束ねていない。技術判断のハブが存在しないまま、現場のエンジニアが場当たりで対応している。

エンジニアは、すごく疲弊する。本人たちは優秀なのに、組織の構造が彼らを"消耗させる方向"に動かしてしまう。半年〜1年で何人かが辞める。辞めた人の穴をまた採用で埋める。採用コストだけが膨れ上がる。

これは"採用の問題"ではなく、"設計の問題"なのだ。


落とし穴②:「ベンダーをゼロにする」を目標にしている

2つ目は、もっと経営判断に近いところで起きる。

「ベンダーロックインを解消する」「外注比率をゼロに近づける」が、内製化の目的そのものになっている会社。これも危ない。

僕の感覚として、内製化の本当の目的は "事業のスピードを落とさないこと" だ。市場の変化が速くなり、外部ベンダーに毎回見積もり・契約・要件定義のラリーをしていると、競合に置いていかれる。だから内製のチームを持って、意思決定から実装までのループを短くする。それが本来の狙いのはずだ。

ところが、「外注をやめる」が一人歩きすると、本来内製でやらなくていい部分まで自社でやろうとしはじめる。

たとえば、自社の中核ビジネスとは関係のない社内の業務システム。この領域は、SaaSやベンダーに任せた方が、どう考えても早くて安い。なのに「内製化方針なので」と、社員エンジニアが業務システムの開発に時間を使う。すると、本当に内製で持つべきだった"事業の競争力に直結するプロダクト"の開発が後回しになる。

さらに悪いのが、技術的負債の処理だ。

3年前のベンダー製のシステムを、内製チームが引き取って、ゼロから作り直そうとする。これは見かけ上"内製化が進んだ"風に見えるが、実際にはベンダーが3年かけて積んだ仕様を、内製チームが半年で読み解いて、3年で書き直すような戦いになる。負債を引き取った瞬間、その内製チームは新規開発に手を出せなくなる。本来やりたかった"スピードを上げるための内製"が、"既存システムの保守屋"に変わってしまう。

ベンダーをゼロにするのではなく、「自社の競争力に直結する部分だけ内製で、それ以外は積極的に外に出す」 という線引きをまず決める。これができていない会社は、内製化を進めれば進めるほど、組織が重くなっていく。


落とし穴③:「内製=固定費」の覚悟が経営にない

そして、3つ目。これは経営側の問題だ。

外注は変動費だが、内製は固定費になる。当たり前のことだが、これを本当の意味で覚悟できている経営層は、思ったより少ない。

内製化を始めた最初の1〜2年は、まだプロダクトも出来上がっていなくて、コストを"投資"と呼べる時期だ。経営会議でも「将来の競争力のためだ」と整理がつく。

問題はその後だ。プロダクトが出来上がって、運用フェーズに入ったとき。エンジニア組織は売上に直接紐づかない部分も含めて、毎月固定で人件費が出続ける。市場が悪くなったとき、外注なら契約を巻き取れば変動費を絞れるが、正社員エンジニアの組織はそうはいかない。

ここで腹をくくれていない経営層は、運用フェーズに入った瞬間に「もっと売上に直結する仕事をしてほしい」と現場に圧をかけはじめる。具体的には、数ヶ月単位の短期成果を求める。エンジニアは「内製化と聞いて入ってきたのに、結局外注と同じ評価軸で見られる」と感じて、辞めていく。

これは、エンジニアが甘えているのでも、経営が間違っているのでもない。最初の覚悟が足りなかった、という話だ。内製化を決めた瞬間に、その人件費は3年・5年単位で抱える固定費になる。この前提を、経営会議できちんと議論できているか。それが内製化の成否を、最終的に分ける。

僕たちが内製化支援に入るとき、最初に必ず社長か役員と話すのも、ここの覚悟の部分だ。技術の話よりずっと先に、経営判断の話をする。

※「自社はこの覚悟ができているだろうか」と引っかかった方へ — 内製と外製の線引きの相談も、K.Platinumで随時受けています。詳しい窓口は記事末尾に。


ITコンサル17人が、内製化支援前に必ず聞く"3つの問い"

装飾:3つの問い

ここまでの3つの落とし穴を踏まえて、僕たちK.Platinumが内製化支援のプロジェクトに入る前、社長や役員に必ず聞いている3つの問いを書いておく。

問い①:「内製化したい範囲は、御社の競争力に本当に直結していますか?」

これは事業の話だ。プロダクトのコア機能なのか、業務システムなのか、社内ツールなのか。競争力に直結する範囲だけ内製で持つ、という線引きを最初に握る。これがないと、後で何でもかんでも内製化しろという圧がかかってくる。

問い②:「最初に採用すべきは、エンジニアではなく"アーキテクト"だと考えていますか?」

組織設計の話だ。書ける人を集める前に、技術判断のハブを置く。これは新卒で取れるポジションではなく、中途で取るしかない。経営者が「アーキテクトの採用に1年かける覚悟」を持てるかどうかで、後の3年が変わる。

問い③:「内製組織の人件費を、5年単位の固定費として抱える覚悟がありますか?」

経営の話だ。短期の売上の波で、内製組織の評価軸を揺らさない。揺らす可能性があるなら、最初から内製化しない方がいい。これははっきり言う。揺らした瞬間に、いいエンジニアから先に辞めていく。

この3つに「Yes」が揃わない会社には、僕たちは内製化支援ではなく、"内製と外製のバランス設計"を提案している。それが、5年後にその会社のエンジニア組織を健全に保つ唯一の道だと思っているからだ。


まとめ:内製化は手段。目的は"事業のスピード"

内製化は、目的じゃなくて手段だ。

事業のスピードを落とさないために、外部ベンダーに頼んでいては間に合わない部分を、自社のエンジニアでやる。それが本来の意図だったはずだ。なのに、いつの間にか「内製化率」とか「外注比率」みたいなKPIが一人歩きして、手段が目的化していく。これが、僕がここ数年いちばん危険だと感じている流れだ。

K.Platinumは17人の小さな会社だけど、上場企業から数十名規模のスタートアップまで、いろんな会社の内製化のリアルを見てきた。その中ではっきり言えるのは、"内製と外製のバランスを設計できる会社が、最後に勝つ" ということだ。100%内製の会社も、100%外注の会社も、どちらも生き残れない。

もしいま、自社の内製化に違和感を持っているエンジニアや、内製化の進め方に悩んでいる経営層がいたら、一度、外の目で全体構造を見てもらうことをお勧めする。技術選定の話より、組織設計と経営判断の話の方が、ずっと根本的だ。


筆者プロフィール

沼田 海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。沖縄高専卒業後、トヨタ自動車を経て、スタートアップITコンサル(戦略〜実装まで一気通貫)でクラウド・AI領域のプロジェクトを複数社で推進。24歳で起業し、現在3期目。エンジニア17人(うち高専出身者8名)の小さな会社を経営しながら、自身も現場でアーキテクチャ設計・案件PMをしている。SI×ITコンサルというスタイルで、上流から開発・運用までを一貫支援するスタイルを取っている。


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