こんにちは。K.Platinum代表の沼田です。
「うちもAIを入れたんですけど、なかなか現場が使ってくれなくて」
お客さんと話していると、この相談を本当によく受けます。半年前の僕なら「ですよね、現場の巻き込みが大事なんですよ」と、したり顔で答えていたと思います。でも最近、この前提そのものが間違っているんじゃないかと思うようになりました。
AIが定着しない一番の理由は、現場じゃなくて「上司」だった。
今日はその話を、うちが実際にやり直した研修の話も交えて書きます。
「使ってくれないのは現場」という思い込み
まず、けっこう衝撃的なデータから。
コーレという会社が2026年1月に出した、管理職1,008名への生成AI利用実態調査があります。そこで、71.3%が「使いこなせない層がいることによる業務への支障」を実感しているという結果が出ました。7割です。もう「一部の話」じゃない。
で、問題はその次です。「じゃあ、誰が使いこなせていないのか」。ふつうに考えれば「ITに疎い一般社員」と答えたくなりますよね。ところが実際のトップは違いました。
- 1位:自部門の課長・リーダー職 29.3%
- 2位:経営層 26.8%
- 3位:一般職 25.6%
読み間違いじゃありません。いちばん使いこなせていないのは、現場の一般社員ではなく、課長・リーダー・経営層——つまり「意思決定をする人たち」だったんです。一般職がいちばん下。
これを見たとき、僕は正直ゾッとしました。うちがお客さんに「現場の定着支援」をやってきたのは、もしかしたら的を外していたんじゃないか、と。
なぜ、上司ほどAIから遠いのか
考えてみれば、当たり前の話でもあります。上に行くほどAIに触らなくなる理由が、はっきり3つあるんです。

① 手を動かす実務から離れている
課長や部長になると、自分で資料を作ったり、コードを書いたり、メールの一次案を書いたりする機会が減ります。「作る」より「見る・決める」が仕事になる。生成AIは基本的に「作る作業」を助ける道具なので、作る機会が減った人ほど、触る理由がなくなっていく。
② 立場上、失敗を見せられない
新しいツールって、最初はみんな下手です。的外れなプロンプトを打って、変な答えが返ってきて、試行錯誤する。若手はそれを気軽にやれる。でも上司は「部下の前で、慣れないツールにまごつく姿」を見せづらい。プライドというより、役割上そうなってしまう。結果、こっそり避けるようになる。
③ 「部下にやらせればいい」で当事者にならない
これがいちばん根深い。「AIは若い子が得意だから、あの子にやってもらおう」。一見合理的ですが、こうなると上司は永遠に当事者になりません。指示はするけど、自分では中身が分からない、という状態が固定される。
上司が使えないと、なぜ現場ごと止まるのか
「上司が使えなくても、現場が使えてるならいいじゃないか」と思うかもしれません。でも、ここが罠なんです。

上司は、承認と評価と業務設計を握っているからです。
たとえば、部下がAIを使って、これまで3時間かかっていた提案書のたたき台を30分で作ったとします。すばらしい。でも、それを見た上司が中身を評価できなかったらどうなるか。
- 「AIが作ったやつだよね? ちゃんと自分で作ったの?」と逆に不信感を持たれる
- 浮いた2時間半を、何に使えばいいのか誰も設計していないから、別の作業で埋まるだけ
- 「AIで効率化しました」を評価する項目が、そもそも人事評価にない
つまり、現場がどれだけAIを使えても、それを受け止める上司側の"器"がないと、成果が組織に流れていかない。せっかくの効率化が、上司のところで詰まる。ダムみたいに。
うちがお客さんの現場だけを支援して、なかなか定着しなかった本当の理由は、これでした。蛇口(現場)ばかり磨いて、詰まっている配管(上司)を放置していた。
だから、研修を「上」からやり直した
この構造に気づいてから、うちはお客さんへの提案を変えました。AI研修は、現場からでなく、決裁ラインから始める。具体的には3つです。
① 研修の初回は、課長以上だけを集める
「まず現場のリテラシーを上げましょう」ではなく、「まず、決める人たちが触りましょう」。順番を逆にしただけで、驚くほど効きます。上が「これは分かっておかないとまずいな」と体感すると、そこから下への号令が本物になる。逆に上が分かっていないと、現場が何をやっても「よく分からないけど、まあいいんじゃない」で終わってしまう。
② 教材は、上司自身の実際の業務を使う
一般的なAI研修は「議事録を要約してみましょう」みたいな、誰の仕事でもないサンプルでやりがちです。これだと上司は「へえ」で終わる。だから、その上司が実際にやっているレビュー、要件の整理、顧客への返信メールを教材にします。「あなたが昨日3時間かけたこの作業、AIと一緒にやったらどうなるか」を、その場で体験してもらう。自分の仕事が軽くなる実感が、いちばんの動機になります。
③ ゴールを「自分がAIの達人になる」に置かない
ここが一番大事かもしれません。上司に「若手みたいにAIを使いこなせ」と求めるのは酷だし、たぶん続きません。うちが設定するゴールは、「評価者としてのAIリテラシー」です。
つまり、自分でゼロから神業のプロンプトを打てなくていい。部下がAIを使って出してきた成果を、正しく評価できる目さえあればいい。「これはAIに任せていい部分」「ここは人が最終判断すべき部分」の線引きが分かる。AIの出力の、どこが危ういかを見抜ける。上司に必要なのは、プレイヤーの技術じゃなくて、監督の目なんです。
これなら、上司も「自分が全部できなきゃ」というプレッシャーから解放されるし、現場のAI活用がちゃんと評価される回路ができる。
K.Platinumは、こうした「決める人から始めるAI活用支援」を一緒に手がけるITコンサルタント/エンジニアを募集しています。詳しくは採用ページをご覧ください。
「上が使う会社」は、実際に強い
ちょっと手前味噌な話をします。
うちは17人の会社で、僕自身が、AIエージェントを日常業務でかなり本気で回しています。ブログのネタ集めも、案件の下調べも、資料の下書きも、まず一度AIに投げてみる。社長がそれをやっているので、「AIを使う」がうちでは特別なことじゃなく、空気みたいになっています。
これは自慢したいわけじゃなくて、「上が当事者として使っているかどうか」で、組織へのAIの浸透速度がまるで変わるというのを、身をもって感じているからです。僕が使わなくなった瞬間、たぶんうちのAI活用は一気に「一部の若手だけのもの」に縮む。
僕は24歳で起業して、いま3期目・27歳です。前職はスタートアップのITコンサルでした。歳の順で言えば、うちはむしろ「上が若い」会社です。でも年齢の問題じゃないんですよね。決める立場の人が、めんどくさがらずに自分で触るかどうか。それだけです。
AIリテラシーは、いちばん下からでなく、いちばん決める人から
まとめます。
「現場がAIを使ってくれない」と悩んでいる会社は、一度、視線を上げてみてほしいんです。本当に止まっているのは現場でしょうか。それとも、その成果を受け止める側——課長、部長、経営層——のほうでしょうか。データを見る限り、律速になっているのは、たいてい上です。
だからうちは、AIの定着支援を「現場から」ではなく「決める人から」始めるようにしました。上司を「使えない人」として責めるのではなく、評価者としての目を持ってもらう。それだけで、現場の努力が、ようやく組織に流れ始めます。
AIリテラシーは、いちばん下からでなく、いちばん決める人から。これが、うちが研修を「上」からやり直して得た、いちばん大きな学びです。
沼田海斗(ぬまた・かいと)
株式会社K.Platinum代表。24歳で起業し、現在3期目。前職はスタートアップのITコンサルタント。生成AIエージェントを日常業務で自ら動かしながら、中堅企業のAI活用支援に取り組んでいる。
K.Platinumでは、中堅企業のAI活用を「現場」だけでなく「意思決定層」から動かすITコンサルタント/エンジニアを募集しています。技術だけでなく、組織のどこが詰まっているかを見抜く仕事に興味がある方は、ぜひ採用ページをご覧ください。

